日別アーカイブ: 2018年10月6日

うつせみの

古賀政男の詞を「万葉集の引用に過ぎない」と指摘する声を聞いたことがある。しかし、万葉ロマンの風化を古賀メロが少しでも食い止めている、と考えれば、古典からの引用に問題があるどころか、むしろ4千5百首の歌を詠んだ天皇、防人、民間人その他大勢のいにしえびとは、草葉の陰で喜んでいるに違いない。
秋の夜長にピッタリな名曲『影を慕いて』の三番の歌詞〈君故に 永き人世を霜枯れて/永遠に春見ぬ我が運命 / 永ろうべきか空蟬の 儚き影よ我が恋よ〉では「永」を三度重ねた技巧と、枕詞「うつせみの」にかけた「ひとよ」の万葉テクが泣かせる!時間では癒せない絶望を表現するのは、14世紀に渡り継続された変わらぬ情けである。(ちなみに私が好きな枕詞は闇黒ムードの「ぬばたまの」だョ)

〈人生の並木路〉より引用
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11/9刊行の作品集『予感の帝国』の作家経歴ページには、私の顔写真ではなく古賀政男の肖像画(これ)を掲載する。