日別アーカイブ: 2018年10月24日

嘘の街

戦前の渋谷で子供時代を過ごした母方の祖母が「ハチ公が屋台の酔客から焼き鳥をもらってる現場をちょくちょく見た」と生前語っていたのを憶えている。ハチ公は死んだ主人を偲んで毎日駅に通っていたのか?それとも焼き鳥に味をしめて出没していたのか?諸説ある忠犬ハチ公物語の真相は定かではない。それは、渋谷川が「臭い」とフタをされ暗渠になったり、かと思えば再開発で緑化されイメージアップに利用されたりするのと同様に時世に左右されるものである。

今週の[朝日:俳壇歌壇]挿画には、昭和初期のスタイルに身を包んだ男女の害虫が渋谷交差点に群がり、我が物顔にダンスする享楽的な場面が描かれている。だが「渋谷くんだり」と渋谷を田舎扱いしてた父方の祖父の言葉から推測すると、この時代はまだ渋谷は繁華街ではなかったようなので、この版画の情景もまた虚偽である。(絵の中央には、和装の女(虫)が警官によって身柄確保されている様子が見える。学生服で擬装しダンスの輪に潜入していた警官に騙されたのであった。)

〈SHIBUYA〉
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昭和初期のダンスホールの写真には、男装の娘とおじさん、男同士、女同士のペアなどが散見され、みな美しく着飾り踊っている。エログロナンセンスの語感よりずっと清潔で優雅な雰囲気だ。