日別アーカイブ: 2020年3月20日

菩提樹

肺病の従兄を見舞いにダボス高地のサナトリウムに行ったハンス・カストルプ青年は、ちょっとした余暇のつもりで3週間の短期滞在を予定してたが、現地で自分も結核患者だと判明、何と7年間の長期滞在をすることに!「死を意識した病人は思慮深く高尚にちがいない」という新参者の先入観は、「病気は人を選ばないし、病が人を成長させることもない」というセテムブリーニさんの説で見事に論破される。肺病の従兄の横でお気に入りの葉巻を「美味い美味い」と吸っていた青二才のハンス・カストルプ君は〈中略〉このセテムブリーニ先生の薫陶を(7年も)受け立派に成長したが〈中略〉第一次世界大戦開戦により、急転直下、激戦地に送り込まれ、自分の軍靴が戦友の手を踏みつけてもなお前進し、自失状態でシューベルトの『菩提樹』を口ずさみながら読者の前から姿を消すのである。彼の最後の一声は「枝は…そよぎぬ、いざなう…ごとく…」で次の歌詞「来よ、いとしとも、ここに幸あり」に続く前に途切れてしまうが、この墓標に刻むのに相応しい一節が彼の命運を暗示しているように思える。(虚しい結末に感動する前にちゃんと経緯を読もう。『魔の山』途中下山の予感が!)

(ここに帽子あり)
IMG_1890のコピー
面をかすめて 吹く風寒く
帽子は飛べども棄てて急ぎぬ…