月別アーカイブ: 2020年9月

ノートゲルトに夢中

私の新しい紙モノ趣味は〈ノートゲルト〉というドイツやオーストリアの古紙幣の収集です。これは第一次大戦期から戦後の混乱期に、地方自治体や地方銀行などで発行されたハイパーインフレ対策の緊急紙幣だそうで、超インフレでいくら本物の紙幣を刷っても追いつかない上に資源の無駄になるので、地域内だけで流通する手作りお札を暫定的に作ったというワケ。
本当にこれがお金として使えるのか?と目を疑うような色とりどりの美しい紙切れには、古城や田園などクラシックな風景画や、童話や伝説の挿絵、農業や工業のイラスト、さらには世相を風刺した絵などが印刷されバラエティー豊富!ノートゲルト入門したばかりで、いまいち価値がわからないので、面白い絵やタイポグラフィの優れた緊急紙幣を(散財しない程度に)集めてまーす。

(集めてもかさばらないペラペラ小型紙幣の誘惑)
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この緊急紙幣は本来の用途を超え、発行当時からコレクションアイテムとして大流行し、発行元として架空の市町村が登場したり、また、集めて楽しいように4コマ漫画風のシリーズ物などが作られたという。(ドン底でも能天気で文化的なワイマール時代の不思議さよ)

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4コマ漫画風のドラゴン退治・暴風雨・かっこいい死神
下段の左の25Pf.の絵は「溺れる者は藁をも摑む」の諺だろうか?
右は屋外排便のシーンが美しい装飾的な線で描かれている(1マルクの1がウンチ!?)

駅伝不発弾

掃除をしていたら20年以上前に描いた箱根駅伝ポスターのイラスト下絵が出てきた。これは当時読売新聞から「やってみないか?」と声をかけられ、作家選考のために提出したラフ画だ。あらためて絵を見ると箱根駅伝の風物詩が盛り込まれ、なかなか良い絵だと思った。富士山/ヘリコプター/白バイの伴走/報道車両/沿道の旗振り応援/自転車で追いかける若者/アフリカ人留学生選手/疲労で老け込んだ走者の顔/手袋などである。箱根にちなんで温泉まで描いたサービス精神旺盛なこの作品が採用されたかというと。もちろん不採用であった。(皆さんがこの不気味なスポーツ画を街頭で見た記憶がないのは尤もなことである)

(燃える選手とスニーカー)
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突出した能力を発揮するアフリカから来た留学生。

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選手よりも私が注目したのは白バイと自転車だ。
部分的に気持ち悪い色で塗られているのは「白黒ではちょっと…」という新聞社からの要望にお応えし着彩したから(着色は私の専門外)。

暗黒の園

昨日をもって練馬区の遊園地「としまえん」は94年の歴史に幕を降ろしたという。私は高校生時代に、西武の社員だった父がくれた大量のタダ券を利用しここで何度も遊ばせてもらった。内臓が背後に置き去りになる感覚の絶叫マシーンが苦手なので、チビッコでもOKな乗り物で遊ぶのが常であったが、中でも一番お気に入りのアトラクションは『アフリカ館』だ。
これは博覧会のパノラマ館を継承したようなマネキンを陳列した見世物で、軌道を流れるジープに乗って、未開の暗黒世界アフリカを探検する仕掛けになっている。エジプトの王族やマサイ族に歓迎されながら暗くカビ臭い館内をジープが進んで行くと、次は野生の王国が待っている。すごく暗くてよく見えないが、密林に潜む動物が単純な動作を繰り返し、突如ジャガーが「ガオー」と叫びながら頭上を飛んで消えていくのがアフリカ館唯一のドキドキ場面だ。カバの池が発する湿気と匂いでだんだん息苦しくなるが(安心しろ)出口はすぐそこだ!…眼前が明るくなると何故かそこは空港のゲートで、4~5人のスチュワーデスがへんな発音で「サヨウナラ・サヨウナラ・サヨウナラ」と手を振りながら見送ってくれる。当時この機械的なサヨウナラを口真似するのが大流行(私とトヨミの間だけで)。原住民や動物の自動人形が醸し出すうら寂しさと、モワっとした空気が懐かしい。

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サヨウナラ・サヨウナラ…