日別アーカイブ: 2020年11月19日

理系音楽/文系音楽

松平頼暁のCD『トランジェント』を聴いて、生物物理学博士である先生の揺るぎない理論から爆誕した音楽に(少々)困惑したが、徹底した情動の排除と「科学的な法則から芸術を完成させる」という強烈な信念を感じることができた。先生の論文『DNAからの音楽メッセージ』ではDNAの塩基配列の規則性を利用した音楽に言及されており、このように生物学と物理、化学と芸術といった相反するような対象を結びつけ止揚する感性は誠に秀才的だ。だがこの芸術を正しく理解できる理系脳のDNAはどうやら私には遺伝されなかったようだ(遠い親戚とは本当なのか?)。
(それで今夜も…)前衛音楽は聴かずにヤナーチェクの『1905年10月1日』を聴いている。これは題名の日付に起きたデモで犠牲になった労働者への追悼曲で、悲壮感漂うピアノの旋律で出来事を想像することができる。また昨今中毒になってるワーグナーの前奏曲は、物語の導入から破滅的な結末を約束した美しくも恐ろしい旋律で鑑賞者をゾワゾワさせる(始まってすぐに終わりを想像して泣ける!)。理系脳でない私には物語と旋律が必要で、エモーショナルな文化が好きな私は文系音楽派だといえよう。そして、感情に訴える旋律の存在しない20.5世紀システマティズム音楽を人々の記憶に残すことは可能だろうか?と数回聞いても曲(?)を思い出すのが難しい現代音楽にいらぬ心配をしたりもするのだった。

〈トランジェント/松平頼暁作品集〉
IMG_0524
(1)TRNSIENT`64 (電子音楽)
(2)ANSSEMBLAGES (テープ作品)
(3)REVOLUTION (ピアノとオーケストラのための)
頼暁氏は録音にあまり興味がないので音源が少ないという。(1)(2)はNHKとの共同製作だったので記録が残っている。

抽象画ではない(これは楽譜)
IMG_0525
ジャケットの絵はTRNSIENT`64の楽譜。
君には理解できるか(私は説明を読んでも解らない)

IMG_0526
ヤナーチェクは『1905年10月1日』初演後に何か気に入らないことがあり、楽譜を川に投げ捨てたという(外来魚と楽譜は川に捨ててはいけない)。 幸いピアニストが楽譜をコピーしておいたので、私たちは現在これを聴くことができる。(ありがとうピアニスト)