日別アーカイブ: 2021年1月7日

見知らぬ誰かの

『魔の山』の主人公ハンス・カストルプは自分の肺病を証明するX線写真を、まるでサナトリウムの通行手形であるかのように常にジャケットの胸ポケットにしまっている。それは現在のベロンと大きな樹脂製のレントゲン写真ではなく、たなごころに乗るぐらい小さなかわいいガラス板だ。(カーニヴァルの夜に)想いを寄せるショーシャ夫人のガラス板と自分のガラス板とをプレゼント交換することに成功したハンス・カストルプは、ガラスに焼付いたショーシャ夫人の美しいトルソーとそれを蝕む病巣の影を透かして見ては夢心地で悦に入るのであった。
…いいな私もこういう素敵なガラスX線写真(風のもの)を持ちたい!そこで思いついたのが写真用ガラス板を蝋燭のススで焦がし、黒く煤けた面を削って肺の絵を描くという方法で、早速材料のガラス乾板を取り寄せてみた。しかし2ダースの内1ダースは撮影済み、もう片方は未使用だと勘違いして買った「ポートレートオルソ(オリエンタルプレート)」という商品は全て使用済みだった!なんたることか。いま私の手元には見知らぬ誰かの思い出(ネガ)が24枚もある。

(昼も夜も)
IMG_0658
箱に入ってた封筒には「台北市京町三丁目」「晝夜撮影・勝山寫眞館」と書いてある。なのでこれらは日本統治下の台湾の写真なのだろう。写ってる人物の服装から1930年代と推定(ガラス乾板からフィルムに移行した時期は1935年頃らしい)。昼夜撮影とは?何のことか全くもって不明!

(見知らぬ若い人たちの影)
IMG_0659
緑陰に憩う学生・記念撮影をする若者・窓辺でチェロを弾く青年・水辺の子供