月別アーカイブ: 2021年4月

ゾンビの代謝

2004年に美浜原発第3号機タービン建屋で発生した蒸気噴出事故は、冷却設備配管のつなぎ目付近で気流の渦がクルクル回り続けたストレスにより、金属管の厚みが10mmからMAX1.4mmまで磨耗し破損。そこから一気に噴出した高熱蒸気を浴びた下請け作業員が5名も死亡したという痛ましい大事故だった。どうしてこんなに薄っぺらになるまで配管を放置してたか?それはその問題箇所が運転開始から28年間も「点検リスト」から抜け落ちてたせいで、劣化配管の交換をしていなかったというお粗末な理由からなのだ。
原発寿命40年説は「定期的に部品を交換し、新陳代謝させて若返らせてるから大丈夫」という主張に基づいてるのだが…。「点検リストに載せ忘れた」という凡ミスの軽さと、失われた命の重たさのギャップに驚愕する。配管の模型を美浜原発PRセンターで見学しやるせない気持ちになったが、あれから二年、この原発が寿命40年説を覆し延命されるという報道を聞いて再び驚愕!そして国から1基につき25億円の蘇り応援予算がつくというので3度驚愕&戦慄!(カーボンニュートラル実現を口実にしたゾンビ計画の恐ろしさよ…)

 

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オリフィス(結合部品)付近で偏流が発生し続け薄くなった金属管

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その誓いは本物?

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島のような美浜原発だが対岸から見ると意外に近い

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(飲んでも大丈夫な)トリチウムくんの兄貴分、プルトくんのボールペンや美浜原発PRセンター特製あぶらとり紙など、魅惑の原発グッズ展示中の東京都現代美術館は休止中〜

見えない猫

冬の終わり頃、郵便受けに尋ね猫のチラシが投函されていた。行方不明の猫はオレンジ色っぽい茶トラのオスで名前はスー。母は偶然近所で見知らぬ茶トラ猫を見かけて、どんな顔か見たくて尾行したが見失ってしまいそれっきりになってたが、その数日後に同チラシが届き「この猫だ!」と思い、さっそく飼い主と会ってスーちゃん発見の協力を約束したのだという。
あれから実家の玄関前にはドライフードが盛られたお茶碗が置かれ、家出猫捕獲のチャンスを狙っているが未だ目的は果たされていない。エサが減っているのは別の猫か動物が食べてる可能性大なのだが「スーちゃんが来ている」と母は断言する。ナメクジ除けの塩を撒いた玄関前にお茶碗を置いて、母は今日も姿の見えないスーちゃんを待っている。

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表裏一体「ツァウバーベルク」

私が版画を学んだ武蔵野美術学園は実技中心の授業内容で、大学のような学科というものが無く、教室内での制作以外は、講堂で年に1〜2回ゲストによる特別講演があったぐらいだった。在校中に私が聴きに行ったのは、学園出身の油絵画家(お名前失念)とシンガーソングライターの長谷川きよし氏の2名のみで、どうして長谷川きよしさんが学園に招ばれたのか今でも不思議。まさか銅版画家の長谷川潔と間違えたなどということはあるまい。講演は「別れのサンバ」や「黒の舟歌」などを聴かせてくれる会ではなくて人生について語ってくれた会だったと記憶している。

このように学術とは無縁な学校にいて、私のアカデミズムへの渇望はあらぬ方向(ほとんど妄想)へ向かい、何かの本で見た抽象的な略図とその解説の真似事のようなことをするまでに至った(下の図参照)。

東京都現代美術館で開催 (本日より休止の) TCAA展『Magic Mountain』のために書いた論考《魔の山考〜菩提樹に寄せて〜》内の〈考察の破片etc.〉(ホワイトアウト)でちょろっと書いた「私はハンスと同い年の頃、おおよその二元的概念は表裏一体という結論を出した」という一文は、学生時代に考えてた自己満足な理屈で、学術への憧れのほとばしりであった。あれから26年、この二元的概念の表裏一体性を応用し、制作したのが新作『ツァウバーベルク』なのだ。

 

(A群: 光/生/白) ↔︎ (B群:闇/死/黒)
二元的要素の表裏一体性について
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①図:水平の境界線上下に分かれたA群とB群
②図:境界線両極=C極とD極が結ばれたことによって内包されたB群と外部に置かれたA群

応用1: 骨壷理論
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境界線を外殻(壷状の容器)に見立てると、
内包されたB群は「あの世」、外界のA群は「この世」として成立する。
壷の開口部はABの往来が可能で、あの世とこの世は遮断されておらず、むしろ表裏一体であると言える。(骨壷をイメージすると分かり易いであろう。)

応用2: 版木の表裏一体
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彫ったところがわかるように予め表面を墨で黒く着色した版木。無傷の版木を刷ると真っ黒いベタのままで「闇」の状態だ。そこを刃物で彫ることで白(光)が出現し、暗黒から世界が立ち上がる。
版木は骨壷とは逆に「光を内包している」と言える。

応用3:ツァウバーベルク
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上部は版木「昼=生の世界」
下部は版画「夜=死の世界」
この作品は、小説『魔の山』の主人公ハンスの「湖面に浮かべたボートの上で、西に太陽、東に月が見える昼夜の同居した不思議な時間を体験したことがある」という回想から着想を得た。(①図の応用でもある)

【お知らせ】
緊急事態宣言発令により本日より5月11日まで東京都現代美術館は休館 ( ; _ ; )/~~~
しばらく『Magic Mountain』はご覧になれません。再開したらよろしくお願いしま〜す。

やさしい奇跡

(ランド執務室に於ける秘密裏の酒宴、その朝に) アルコールの影響なのか変な夢を見た。どこかの劇場の後列座席で、あまり興味のないイタリアンオペラを鑑賞していると、通路前方から見覚えのある白人男性が歩いてきた。薄いピンク色の微妙な感じのシャツに白いジーパン、キラキラした鋲のついたベストを着用した死んだはずのペーター・ホフマンは、空席を探すように悠然とあたりを見回してから私の隣に座った。「こんな近くに憧れのスターが!」ありえない状況に興奮した私は不躾にも彼に話しかけてしまった。「あなたのパルジファル、ジークムント、ローエングリンが好きです」私のデタラメな英語にもローエングリンそのままの優しい微笑みで頷いたホフマンは、ポケットから白くて小さい小鳥の卵を数個取り出し私の手のひらにそっと乗せた。手品のような奇跡に呆気にとられたまま幸福感で目が覚めた。( TCAA展が始まって1ヶ月ほど経ってようやく悪夢から解放されたのだ)

スターの休日ファッション
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蝶が乱舞する素敵なシャツを着たこのドイツ人がヘルデンテノールのスター、ペーター・ホフマンその人だ

法螺吹けども踊らず

濃い霧に包まれた高尾山山頂「プオオォ〜プオオォ〜プオオォ〜」と一斉に吹かれた法螺貝の音とともに背広姿の男たちがロープを引く。もたもたと引っ張られ無様にずり落ちた幕からモニュメントが現れパラパラとまばらな拍手が送られる…。巨大でも小さくもない中途半端な五輪マーク立像が、オリンピック開幕100日前を記念して高尾山に建立されたというこのニュースを、一昨日三度もテレビで見て「この風景は吉村さんの絵だ!」と私は着座したまま振り返り、背後に飾られた絵画と見比べた。(これは似てる!!)
この絵はC.D.フリードリヒ風の灰色に煙る山に(見る者もいないであろう)虚空に向けて五輪マークが屹立としているという水彩画だ。寂寞感が一周回って滑稽に見えるこの絵画に酷似するニュース映像は信じたくないけど現実で、この間抜けなセレモニーにも私の納めた血税がお役に立っていることだろう。幻の為にお金を使ったり法螺を吹くのはもう止めていただきたい。(法螺貝を吹いた山伏は無償ボランティアか?)

ニュース映像より
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吉村宗浩さんの作品『大地は永遠なり』
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【ROADSIDERS’ weekly】より
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あの都築響一さん発行のウェブ雑誌【ROADSIDERS’ weekly】にて、特集記事『風間サチコさんと登る魔の山』を掲載して頂きました!!開催中のTCAA展からかざまランドの秘密まで、美しい写真と詳細な取材報告が楽しめる充実の内容です。興味のある方は是非とも購読してください!(下の写真に吉村さんの絵が…)

窓黒の初心

「展覧会開催に間に合うのか?」と焦りに焦った地獄の季節は過ぎ、スリル中毒を存分に味わった後に訪れたのはこの虚脱状態、俗にいう燃え尽き症候群だ。確定申告で納税する金額にガッカリした気分も上乗せされ、何にもヤル気がせずに終日ボ〜っと過ごし「これではいけないなぁ」と一日を終える早朝に反省する日が続く。(せめてブログの更新ぐらいはしなければ!!)
…思えばこのブログを開設した目的は、8年前の六本木クロッシング2013展に出品した『人外交差点』の作品解説をするためであった。それも「インターネットで展示の告知をした方がいいわよ」というキュレーターさんから頂戴した助言でやっと重い腰をあげてのことだ。そう、連載当初は現在のように変な紙物や変な夢を紹介する変態趣味のブログではなく、作品への理解を求める真面目な内容だったのだ!…私は窓外の黒化粧開設の初心「自己完結の溶解」を思い出し、都現美で開催中TCAA展の作品解説(主に新作コーナー)をしようかと考えてる。さてと…何から書こうかな?

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銀色に輝くモノグラフ

ただいま東京都現代美術館で開催中「TCAA受賞記念展」は受賞作家が受けるサポートの三本柱の一本で、もう二本は海外活動支援(渡航援助など)とモノグラフ(非売の作品集)の制作及び刊行です。このモノグラフは定められた判型さえ守れば如何様にも造本することが可能で、私の場合はキラキラと光り輝く銀紙が張られた斬新で美しい表紙が特徴的な本になりました!

この素晴らしい装丁と本文デザインをしてくださったのは、昨年2月無人島個展のセメントDMを作ってくれた吉岡秀典さんで、編集は『予感の帝国』刊行に尽力してくださった朝日出版の綾女欣伸さんです。そして経歴や作品情報を逐一チェックしてくれたのはチーム無人島、略してチー無の皆さんです。(私の記憶は曖昧で頼りにならない)
皆さまのお陰で完成したこの本は、残念ながら販売されませんが、展示会場(最後の部屋)で閲覧することができます。表紙の銀紙は非常に指紋がつきやすいので、来場者がこの本『Magic Mountain』を手に取ってくれたかどうかは表紙に脂がついてるかどうかで判断できる。ちなみに「銀張る」とは歌舞伎用語で顔面の白粉に脂が浮いた状態のことを言うらしい。銀張り表紙が銀張っているか(みんな見てくれたか)確認しちゃおう!

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『Magic Mountain』ロゴが凹凸だけで表記されてます。湖面に山脈の鏡像が映り込む新作「ツァウバーベルク」をイメージして鏡のような銀紙を張ることにしました。

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背面は壺も映っちゃうほどツルピカ

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見返しのブルーは前と後ろで濃淡があります

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「肺の森」下絵。どのように変化したかは会場で完成品を見てみよう!
図版左下のかっこいい数字は吉岡さん考案。

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お友達の写真家・朝海陽子さん撮影の「かざまランド」そのほか色々なカット掲載。私はこの写真がとても気に入ってます!

新旧作品群がタダで見れちゃう展覧会(於MOT)
ト-キョ-コンテンポラリ-アートアワード受賞記念展

レシート・マウンテン

コロナで一ヶ月の猶予期間が与えられた確定申告の締切りがあと2週間と迫っている。展覧会準備で後回しにしていたこの国民の義務(ツケ)を果たすべく、マジックマウンテンを無事下山しほっとしたのも束の間、私は今レシートの山と対峙しているのだ。分類し積み上げては不注意で崩れ、床にヒラヒラ舞い落ちる紙片に嘆息し、生来お金と数字と事務作業に弱い自分自身を呪う…。
令和二年度領収書山の特色は、昨年夏からかざまランドで大流行「ノートゲルト」の支払い額が目立って多いことである。レシートの束と正比例して増えるノートゲルト(ハイパーインフレ緊急紙幣)は現在100枚程あり分類整理されるのを山と積まれて待っている。ノートゲルトは100年前のドイツ紙幣だが通貨として使用できず、世界の好事家にのみ価値がある趣味の愛玩紙幣で、これをいくら貯蓄してもけしてお金持ちにはなれない(けど私は集める!)。

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ブラックモンブランの包装袋をかわいいマグネットにしてみたヨ。
袋の素敵な部分を切り取って(頻繁に郵便受けに入ってる)水道トラブル工事業者の広告マグネットに両面テープで貼っただけ!簡単に作れま〜す。