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イープルの霧

複葉戦闘機、重機関銃、潜水艦、巨大戦艦…。産業革命以降はじめて世界的に拡大した戦争、第一次世界大戦は、さながら近代科学兵器の大見本市のようであった。その中でも戦車の誕生は、大量殺戮時代の幕開けを告げるエポックメイキングだったといえよう。

肺の森シリーズ『Ypres fog』で肺のような形に左右対称に解体されたMark.1戦車は、世界初の実用戦車で産業革命のご本家イギリスで開発された。塹壕戦を突破するため、全長10m近くもある巨体にぐるりと履帯を巻いた菱形戦車は、初期型ゆえに欠陥が多く、乗員をもっとも苦しめたのは劣悪な車内環境だ。換気設備が無く極狭の操縦席にはエンジンの熱気、硝煙が充満し、時にはガスマスクが必要だったそうだ。
そして息苦しいタンクの外はさらに地獄!雨あられのように弾が飛び交う砲撃戦、精神を切り刻む塹壕戦、悪魔の所業のような毒ガス戦。ノイエ.ザッハリヒカイトの画家、オットー・ディックスが描いた傷痍軍人たちの悪夢そのもののグロテスクな世界…。逃げ場のない恐怖は、想像しただけで息が詰まりそうになる。(この正気を失わせる戦場でハンスは姿を消した。)

Ypres fog
TCAA_210322_367のコピー
1917年、ベルギー西端部イープルの戦いでドイツ軍がマスタードガスを兵器として使用。本格的な化学戦はこれが最初だったという。糜爛性ガス「イペリット」の名前はこれに由来する。

(もう一つのMark.1mark1)mark1
mark1
『黎明のマーク1』(2012年)
福島第一原発1号機に内蔵された米国GE社製の格納容器、その名も[Mark.1]。奇しくも同じ名前の型落ち欠陥タンクは容器の体積が小さく、これが水素ガスが充満し爆発した一因だとされている。(画面下方では戦車Mark.1が土木作業に従事している)