日別アーカイブ: 2021年8月30日

パパゲーノ効果

昨今「パパゲーノ効果」と「ウェルテル効果」なる事象が注目されていることを知った。失恋が原因の自殺願望を断ち切った良い例として『魔笛』に登場するパパゲーノ、絶望し自殺してしまった例えとして『若きウェルテルの悩み』の主人公があげられ、繊細で共鳴しやすい若者が、有名人の自殺を伝えるニュースに影響され後追いしてしまう可能性(ウェルテル効果)を危ぶみ、パパゲーノのように思い止まり生還した好例をもっと盛んに報道した方が良かろう…という自殺抑止策の提案のようだ。しかし私はまだ〈倒してもない大蛇を素手で倒したと偽証〉したパパゲーノしか知らず、更にゲーテの『若きウェエルテルの悩み』に至っては1行も読んで無いときた。推量の域ではあるが、おそらくそれは昨夜観たTV能『戀重荷』のような失恋ストーリーなのだろう。(それはこんなお話だった)

…白河院の庭園で菊の下葉を取る担当の老人が、屋敷に住む女御に叶わぬ恋心を抱く。「この箱を持って庭を100回以上周れたらチャンスがあるかも?」との伝言を真に受けて「よし!周っちゃうぞ」と意気込むが箱はびくともせず、持ち上げることすらできない。実は、軽そうに見えるラッピングで装飾された荷箱の中身は異様な重量の謎の物体。「だましたな~」と恨みながらお爺さんは死んでしまいました。そして女御に〈座ったまま動けなくなる呪い〉をかけたのです。「呪いを解きたいのなら私を供養しなさい。そうすれば葉っぱの守護神になるから」とジジイの怨霊は言う。その言葉に従い供養するとあら不思議、無事に動けるようになったのです。…

死に至ってしまうほどの苦悩には同情するが、座りっぱなしの呪いをかけてしまう執念は全く共感できない(私が終日座りっぱなしなのは、むろん呪いの類ではなく単なる怠惰だ)。18世紀に刊行の『若きウェルテルの悩み』は自殺ブームを誘発したため「精神的インフルエンザの病原体」と当時は呼ばれたらしい。同じゲーテの著作なら、もっと生きるのにお役立ちなポジティブ格言集があるので、そちらを参考にした方が若者の為になるだろう。(小説より短いし簡便)

 

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「心を蘇らす泉は自分の胸中から湧いてこねば、心身を蘇らすことはできない」さもありなん。