日別アーカイブ: 2021年11月23日

うつせみの…

8年前の11月、恩師である木版画家・塙太久馬先生が66歳でお亡くなりました。重い持病を抱えながら作家活動と武蔵野美術大学&学園の講師をされていた先生の顔貌は、病気の影響なのかいつも土気色で、お名前の印象と同じく古代貴族のようなプリミティブな気品がありました。
ピンク色のミニミニ河馬ブローチ(娘さんからのプレゼント)がお気に入りで、セーターに付けて教室にやって来ては、我々生徒たちが極小カバを発見し「キャ〜!かわいいですね!」と褒めそやすまで澄ました顔で待っていたりとお茶目な一面も…。
また面倒見が良く、私が貧乏学生の時分には先生出演(ジュディ・オング共演)の『NHKおしゃれ工房』の助手、卒業してからは武蔵美通信科の臨時教員として採用して頂き、そのお給料で材料が買えてとても助かりました(ありがとうございます!!)。
忘れられないのは学園を出る日「これから風間さんと俺は作家同士、ライバルですよ」と仰言った柔和な口調とは裏腹に、庇のような瞼の影からギラリと輝いた先生の眼光。思いもよらない先生の言葉にビックリしましたが、あの時の動揺が今でも励みになってます。

そんなことを想い出したのは、台所に置きっ放しにしてた先生の蝉の幼虫版画の額縁が気になり、トイレの壁に飾って毎日眺めているからなのです。塙版画の主人公である蝉の幼虫は、空蝉(抜け殻)ではなく生体で、幼虫が長時間暮らすはずの地中ではなく地上で人間のように生活してます。花柄セーターや横縞Tシャツを着たおしゃれ幼虫は、先生自身の現し身であり、背景の街角は儚い現世を写しているのかもしれません。

8×11cmの木口木版画に影を偲んで…
IMG_1996

うつせみの 世は常なしと 知るものを
秋風寒み 偲ひつるかも?