月別アーカイブ: 2022年1月

旅のアリバイ

平安時代の歌人・能因法師は、白河の関に行ったことがないのに「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」と詠んで、そのアリバイ作りに京都の住居敷地内で日焼けをし、いかにも長旅から戻ってきたような顔になってから発表した…。という出所不明な面白エピソードを持っている。
この嘘か誠か怪しい話を知ってか知らぬか、のちの世に西行が、そして西行を尊敬する芭蕉がこの白河の関を訪れ、(日焼けした)先達に倣って作品を詠み、放浪の僧に憧れて同じ東北地方を旅している。昔の人にとっては和歌集が旅行のガイドブックで、ルートも風景も歌から情報を得ているのだなぁと、現代人とは比べ物にならない旅への情熱に、驚異の健脚ぶりも含めて感心した。
私の場合、東北旅行は新幹線を利用するし、健康的なアウトドア派のように日焼けもしない(外出の際は紫外線予防)。そして旅行の案内は本からスマホに代わり、図書館でコピーしたガイドブックや地図の携行は今は昔となった。


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旅行を捏造するなら、行ったことのない場所の絵葉書でも送ろうか?

一日先生の言葉

学童及び生徒諸君ありがとう!昨年11月から都内の小学校と高校(計6校)で、私発案『正直マスク』を伝授する美術教育事業〈一日先生〉は、24日の小学校訪問をもって終了しました。美術家を名乗る誰ともわからぬ徒者を好意的に迎えていただき心より感謝申し上げます。(へんな)先生の話をちゃんと聞いて理解し、真剣にマスクを作ってくれた皆さんの素直さに先生は感慨を覚えました。

最後の小学校では「座右の銘は何ですか?」という男子児童からの質問に「一宿一飯です」と答えましたが、小学6年生に渡世のイロハのような言葉を教えてもよかったのか、今になって先生は反省しているのです。各学校を渡り歩き、下駄箱で土足から来客用スリッパに履き替えさせてもらった恩義はキッチリ皆んなに返せたかな?(これが一宿一飯の答えです)。アート的頓智を活かせるかどうかは君たち次第だ、さあ頑張りたまえ!

(正直マスクとは?)
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使い捨てマスクに自分の口を模した消しゴムはんこ捺し、上部プリーツに胸の内コメントを書くという作品で、ルールは人を不快にさせない言葉を選ぶこと。私の見本品には「納豆なら毎日食べてもいい」と書いてある。(増殖する私の口はんこが不気味…)

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株式のルールも花札のルールも理解できない先生だが更に理解不能な「株札」という博徒御用達の品を購入した。(教育上よろしくないが)謎めく札を眺めるだけでも美術教育に値するだろう。

模写ラーメン

昨年12月に松島さかな市場で食べた「海鮮塩ラーメン」を家にある食材で再現してみました!
いしのまき元気市場で購入した生海苔とフノリ、カニ爪は再現度の低いカニカマ、ホタテは黒部産カマボコで細工、ムール貝は出汁用昆布とニンジンで工作してトッピングしたよ。そっくりにできたかな?

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不易流行

〈寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋〉
これは芭蕉が敦賀半島・色浜を訪れたときに詠んだ句で「源氏物語などで〝寂しいムードの須磨が最高〟と賞賛されてるけど、色浜の海岸風景の方が優ってると思う」と、概ねこのような意味である。古典文学をリスペクトしながら、己の審美眼の確かさを先人に誇るような強気な句だ。
このように過去を尊びつつ、常に新しさを求めることが芭蕉の説いた〈不易流行〉だが、これは現代にも通用する我ら芸術愛好家向けスローガンだと言えよう。

昨年12月、私は松尾芭蕉の賛辞(造化の天工)に憧憬を抱き、(株)ニュー松島の遊覧船で松島見物をした。しかし古絵葉書の美しい勝景が脳内に刷込まれていたので、痩せてエッジの甘くなった島々を前にして正直ガッカリしてしまった。度重なる津波など自然による侵食なので(ああ無常!)、これはこれで致し方ないが、芭蕉がここを訪れた333年前はもっとシャープで格好いい島々だったはず!
…そうだ、心静かに333年前の松島湾を想像し、不易流行の『ニュー松島』を描くことにしよう。

(忘却に亡ぶ不老山)
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かつては「松島絶勝 不老山の景」と紹介されてたここ奥松島の不老山一帯だが、3.11大震災後の防潮堤工事で盆景のような構図はすっかり寸断され破壊されてしまった。この絵葉書は「野蒜埋立地海岸ノ景」と題されており、明治初期の大失敗土木事業「野蒜築港」の名残を写している。
石巻展は、アルミ絵画『ニュー松島』の他に『のびる築造』『FLOW(沖つ国/不老山)』の三作品を制作する予定。誰が詠んだか不明の「沖つ国」で始まる不気味な歌のように、不穏と未知に満ちた新しい作品にするつもりです。

タゴール冥想岩

音楽の聖人は楽聖ベートーヴェン、そして詩の聖人は詩聖タゴールだという。だが私はこの高名なインド人の詩をひとつも読んだことがない。ここにある古絵葉書〈タゴール冥想岩〉には、良くも悪くもない岩石写真が印刷されているが、なぜ岩に詩聖の名前がついているのか?冥想岩とはなにか?解説一切なく全てが不明だ。この絵葉書の秘密を探るべく、暇人の私は今日もコタツに入ったままネットサーフィンに出かけるのだった。(それは止観とは程遠い小波立つ雑念の旅)

【タゴール冥想岩まとめ】
●絵葉書の発行時期しらべ
岡倉天心と深い親交があったタゴールは天心の死後、彼の面影を慕って大正5年5月に来日し、茨城県五浦の六角堂にこもり瞑想したという。詩聖滞在の3ヶ月間、町中がタゴールフィーバーに沸いたらしいので、その熱狂から発行された絵葉書なのだろう。[大正5年(1917年)発行か?]
●岩の場所しらべ
天心先生が生前瞑想してた六角堂で座禅を組む異国の詩人、ガンダーラ彫刻のごときタゴール翁の神々しい姿を目の当たりにして、一門の弟子たちはどんなに感激したことか!その感動を後世に残すべく六角堂付近の岩に〈タゴール冥想岩〉と名付けたのだろう。しかしフィーバーが去り当事者が亡くなった今、岩の存在はすっかり忘れ去られ、この希少絵葉書しか残っていない。

以上推測が当たってるかは、五浦海岸岩場にタゴール冥想岩絵葉書を持参し確認するしかない。

謎が深まる謎俳句つき絵葉書〈タゴール冥想岩〉
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「人に似た岩は黙して河鹿あな 小波」
人に似てないこの岩を(つべこべ言わず)人と観て悟ることの難しさ…(小波とはおそらく俳人の巖谷小波:イワヤサザナミのこと)

同じ河に二度足を入るゝこと叶わじ

今夏参加予定の石巻市街地展の構想に取り組んでるさなか、昨夜の津波発生でTV画面に大きく表示された『にげて』を目にし、3.11大震災当時の心境に再び揺り戻されるような気がした。(そして今日は阪神淡路大震災から27年)
私があの時(とその後)、心身の混乱と膠着から逃れるために頼った言葉が、松尾芭蕉・笈の小文の序文〈造化にしたがい造化にかえれ〉とヘラクレイトスの思想〈パンタレイ(万物流転)〉で、この二つに通底する反人間中心的な概念と無常の摂理について想いを馳せると、「仕方がない」という諦念が自然に湧いてきて、風まかせでもフラフラ動けばいいや…と心が定まった。

あれから11年経った被災地で展示をするにあたり、私にとって拠所だったこの二つの言葉を改めて勉強しようと思い、関係のありそうな文献を読んでみることにした。本をペラペラめくると早速〈パンタレイ〉の語源が「同じ河に二度足を入るゝこと叶わじ」に由来するとの記述を見つけ、なんと鴨長明・方丈記の序文「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」にソックリなことに驚愕する。これは偶然か必然か?古代ギリシアから平安/鎌倉/江戸時代へ万物流転…何か因果があるのだろう。

難しい本がいっぱい (たぶん読めない)
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煩悩の表現から真実相への解脱〈止観的美意識〉とは非常に難しいが、悟りの境地に至った名僧への憧れ、それ自体が美意識だというから安心したまえ。出家も遁世もしなくてOK (なので芭蕉も西行リスペクトでOK) たぶんそんなことが書かれている学術誌『美學』

集景中です!

絵葉書中毒が再発し、暇さえあればヤフオクで探す毎日。30年前来の累積が優に千枚は超える絵葉書群に異常性を感じ、そろそろやめなければと思うのだが(病的に)やめられないでいる。まずいことに昨今はネットで入手できるので、骨董市やフリマに出向いて細々と仕入れてた昔と違って急速に(病的に)増えてしまうのだ。露天商から買うのが趣味的な釣りの規模だとすると、ネット落札はソナー搭載の漁船レベルの漁獲量で本日も大漁!

先日掲載の絵葉書 (櫻島勝景〜牛根海岸より望む) 通信面を見ると、切手箇所には西郷隆盛&愛犬ツンの銅像シルエット、中央罫線には「鹿児島市東千石町|俣野 集景堂發行」と版元の所在地と店名が印刷してある。〈集景〉とは何と素敵な造語だろう!私の絵葉書中毒もある意味「風景を集める行為」なので、これに倣って病的蒐集も「集景してる」と言い換えようか?(明治44年創業の画材屋さん〈集景堂〉は今も鹿児島市の天文館にあるという。この大正時代の絵葉書持参でいつか訪ねてみたい)

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3月は古絵葉書の印刷を学びに京都に行く予定!

1914年1月12日

今から108年前まで鹿児島の桜島は名前のとおり四方を海で囲まれた島だったが、大正3年1月12日の大噴火による溶岩流出で対岸の大隈半島と地続きになり現在の姿になったという。このことは先日の新春古書自慢コーナーに登場の(櫻島大爆発) 噴火弾エハガキを調べてみて初めて知った。他にも大量エハコレの中に噴火の記録絵葉書を発見したので、本日「桜島の日」にちなみご紹介しましょう。

〈大正大噴火メモリーズ〉
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(櫻島大爆発) 噴火弾
美しい果物のようにテーブルに並べられた変な石。
この不思議な写真が桜島大噴火の記録だということはキャプションを読まないとわからない
こんな大きな噴石が空から降ってきたら命の保証はないだろう…

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(櫻島大爆發) 横山大噴火
黒い雨合羽の人は噴火に近寄りすぎでは?(当時の火山人気がすごい)
噴煙が恐ろしいこの地区も100年後の今は(特に化石が出るとかではないのに)恐竜公園のある町に!

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鹿児島港海岸より櫻島大噴火を望む
観測所がなかなか避難勧告を出さない中、島民たちは自分の船で自発的に避難したという。
(この写真にも人を乗せたそれらしい小舟が写っている)

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(櫻島勝景) 當時の凄惨を語る大隈櫻島間の水路閉塞の實況(牛根海岸より望む)
船が往来してた瀬戸は溶岩で埋まり、行止りになってしまった水路に佇む男。
長さ400m深さ70~80mもある海峡を1カ月ほどで陸地に変えた溶岩流の脅威!

さまよえるファングッズ

昨今のワーグナー楽劇は、指揮者と演出家による独自の解釈と、奇抜な舞台装置によるコンテンポラリーな演出が多い。昨年のバイロイト音楽祭『さまよえるオランダ人』は現代の港町という設定で、幽霊船長オランダ人がフィッシャーマンズセーター着用のカジュアルな中年で驚いた。(ロシア文学が原作の陰気なファミリードラマなら良さそうな演出.)
これと違い、私が繰返し鑑賞してる『ニーベルングの指環(ブーレーズ版)』は、クラシックで重厚な演出が大変好ましいが、登場するはずの馬の姿は無く「馬がいる」という前提で歌がうたわれ物語が進行する。もし本当に馬を登場させるとしたら、ワルキューレの人数分の軍馬(9頭)が必要だし、ヴォータンの軍馬は馬用の義足(4本)を作ってスレイプニルに仮装させなければならないだろう。

〈Brunhilde Grane〉
これはTシャツではなくキーファーの巨大版画
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amazon通販のスレイプニルTシャツ及びパーカー説明文には
「学生、オタク、家族への特別なプレゼントにも。バイキング/ヴォータン/北欧/ルーン/ヴァルハラ/ノルディック/神/ミョルニル/ペイガン/ミッドガルド/ゲルマン/セルティックの心は鼓動していますか?あなたはオーディンのファンですか?このデザインで、バイキングへの情熱を示すことができます。」…と書いてあり多種多様なファンにぴったりのカジュアル衣料であることがわかるが、何のことかさっぱり不明の単語はいずれも私に該当せずバイキングへの情熱を周囲に示す必要性はない。(初夢のお告げでは着たほうが良さそうだけど、どうかな?)

孤島ノ光リ

〈新春恒例古書自慢会〉
〜膨張する絵葉書セレクション〜

これらは凡そ百年前の絵葉書で造化の天工(驚異の景観)の点景として未だ人間に価値があった時代のものである。恐ろしい風景の中にポツンと捨置かれた男。此人が、21世紀を旅する孤独な我等観光客に何やら喋りかけてくるようだ。招かれて私もいつしか洞窟の客人となる。

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(佐渡國小木港)  魚見海岸ノ大洞窟

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(銚子名所)  孤島ノ光リ

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札幌區大洪水 豊平川臨時渡船の実況

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(櫻島大爆発) 噴火弾

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(陸奥浅虫温泉場名所)  海岸の夕景