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ヘビを捨てて山に行こう

特急ちちぶ9号に乗車し西武池袋線仏子駅〜元加治駅間の入間川橋梁を渡る。かつて秩父平氏一族が統治してたこの一帯は、発心集〈武州入間河沈水の事〉の現場からさほど遠くない。お話の主人公・管主は、漂流する屋敷の上で従者から「海が間近に迫ってます!早く逃げましょう」と促され濁流に飛び込んだ。必死に泳いで葦原にしがみついてると、流れてくるヘビたちの恰好の拠所になってしまい、どうにか浅瀬にたどり着いた時も巨大なヘビが何匹も巻きついたままだった!

屋敷ごと海に流出とあるが実際のところ川越から海まで流されるのに如何程の時間を要するのか?現場の上戸運動公園から荒川合流地点まで15Km、河口(新木場)まではトータル62Kmもある。氾濫時の急流は秒速4mほどだそうだから「62.000m÷4=15.500秒(258分=4.3時間) 」かな?この計算が合ってれば4時間18分でけっこう長時間。なので、すぐ海に流出とは考えられず、おそらく関西人の鴨長明は川越市が内陸部にあることを知らずに緊迫する状況を表現したのだろう。

大量のヘビがニョロニョロ絡みつく気持ち悪さを「地獄の苦しみ」と強調し、水から上がって真っ先にヘビをむしり取ったことが書かれてるので何か仏教的示唆があるのかと思ったけどヘビに特別な意味はないみたい。結局この話で鴨長明が云いたいことは「厭離の心を発すべし」の一語で、天変地異/家庭不和/世界動乱といった恐ろしい時局と付き合わずに世を捨てよう、という些か無責任な遁世の推奨だ。謎なヘビのくだりは「纏わりつくヘビをかなぐり捨てるように社会通念のしがらみを捨ててもよろしい」みたいな隠しメッセージなのかも?

発心とは、M.シュティルナー、辻潤にも通じる虚無的個人主義に近い。それは単なる厭世ではなく、無用な軋轢を回避する和平の知恵だとも言える。(同門のマルクス&エンゲルスと思想を異にしたシュティルナーは偉い!革命は絶対的指導者を誕生させる。平和のためと嘯く詭弁上等なボルシェビキの悪霊をどうしたらよいか?)

新版『発心集(上)』4-9話より
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屋根の上に妻子を残し濁流に飛び込む管主と従者の図

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グーグル地図の距離計測機能を利用してみた

人面石第1号の託宣

おじいさんが人面石第1号から「私の仲間がまだ川にいるから探しなさい」と夢で告げられ、その言葉を信じて秩父の川に行くと、夢の啓示どおり顔に見える石がたくさん河原にあったのだという。
集められた無数の石たちは、おじいさんが亡くなった今も、石と心を通わす我々(世界の人面石ファン)に微笑みと交流を提供し続けている。人面石第1号がおじいさんに託した石世界は、人間界では脆くも崩れやすい〈平和〉を、愛石の残留思念を発しながら寡黙に体現しているのである。

「人面石第1号」
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黒い顔に白い二枚貝化石の目と口がミステリアスな珍石館発祥の石。
第一発見者から石を譲られた男性が自宅に持ち帰ったら、奥さんから「不気味だから見たくない」と嫌がられ仕方なく初代館長(おじいさん)に委ねたそう…。(もらった夜に不思議な夢を見たという)

(書記長の石)
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ブレジネフ、ゴルバチョフ、エリツィン…。おじいさんの名付けたソ連.露の最高指導者石。
ここにКГБの揺曳.プーチン石はないが、あってもおそらく人間の顔はしてないだろう。

人面石命名

山と石と岩と人口氷柱を見るために秩父に行って人面石に名前をつけてきました。秩父本線影森駅を下車して15分ほど歩いたところにある『珍石館』は、普通の民家内に数千個の人面石を陳列した個人博物館で、私が数年前から行きたかったパラダイスです。
初代館長のおじいさんが水石から人面石採集に趣味が移行し、存命中に拾い集めた秩父産顔石と、日本全国(外国人も)の人面石ファンが持ち寄った顔石が無限大の宇宙を生成している。これらの人格を有する岩石群に囲まれ、無言のお喋りに耳を傾けるその時間はまさに至福!

現在は初代の娘さんが館長をなさっており、この2代目館長と旦那さんのお二人で親切に石にまつわるお話をして下さり面白かったです。水石の底切り&磨きOK派の館長と反加工派の私で意見の相違がありましたが、愛石は平和な趣味なので対立は無用!帰り際に人面石の命名をさせて頂き、私の名付けた石を後の見学者が「似てるか似てないか?」と論じてくれることに期待。これからもこの世界に類を見ない素晴らしい珍石館が存続することを切に願います!(また可愛い石達に会いたい。みんなも行くと良いよ。超オススメです)

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石の個性に合わせた木製台座は全部おじいさんの手作り。真の愛石家の姿を見た!(この中に私命名の人面石があります。さてどれでしょう?)

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鴨長明に似た石を探してたら…あった!
遮光器土偶とクッキングパパに挟まれた鴨石

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この有名な肖像画にそっくり(かも?)
ほかにも秀逸な名前の顔石多数 !後日紹介 

祝50!誕プレ集

あっという間の半世紀!私のように気儘な人間が50まで生き存えたことに驚きを禁じ得ないが、流石にあと半世紀(百歳まで)生存できるとは思えないので、余生は今まで以上にディレッタント数寄放題を極めたいと思う。そんな気分で50歳の誕プレは自分で購入・74式戦車キーホルダー/発心集/小型デジタル写真機/ランボルギーニ・カウンタック柄ミニカー専用トランク/可愛い♪とりちゃん…と盛りだくさん!だがしかし、どれも半世紀を象徴するような記念品ではなく、誕生日を口実にした単なる浪費とも言える(またもや鴨ライフから後退!)。

50歳で出家しシンプル鴨ライフを終生全うした鴨長明。常に移動可能な状態で、限られた物品しか所持しないストイックな鴨さんに戦車キーホルーダーをプレゼントしたら不快な顔をされるだろうか?これからは鴨さんに気に入られるような消費行動を心がけたい。

(50歳にふさわしい誕プレ)
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74式戦車キーホルダーの拓本
このレトロ戦車は武器学校(土浦)とりっくんランド(朝霞)で見たことがある。

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まるで何年も前からそこにあったような…
かざまランドのインテリアに馴染むカウンタック.トランク

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ミニカー専用のトランクだけどカウンタックのミニカーは2台しか持ってないので、読まずに放置されてた難しい本を入れてみたヨ。
「夢中問答集」は夢の中の面白い会話を集めた本ではなく、「菜根譚」は美味しい根野菜レシピを集めた本ではない。

賢人右府が白髪を見付けたこと?

鴨長明「発心集 」現代語訳付き上下巻(角川ソフィア文庫)の下巻だけ一昨日手に入れたので、早速どんな本か何の気なしに開いてみたら〈賢人右府が白髪を見付けたこと〉という見出しの現代語訳コーナーのページだった。
この変な題のお話の大意は「小野宮右大臣が牛車で住まいに向かっていると、白くて小さい異様な男がすごい早足で車を追いかけてくるのが見えた。大臣が簾をあげて「何者だ?用は無いから立去りなさい」と言うと、男は「閻魔王の使いの白髪丸です」と名乗って牛車に飛び乗り、大臣の冠の上にひらりと登り姿を消してしまった。大臣はこれを怪しく思い、家で自分の頭を調べてみると白髪を一筋発見した。これに俗説の証拠をつかんだような感慨を覚え、今まで特になかった仏道への関心を深め、真剣に勤めるようになりました。」という感じで、この不思議短編は星新一のショートショートのようにシュールな読後感だ。私は第7-6の一編で「発心集」の面白さを確信した!

(次に開いたページは図版付き解説だった)
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入間川?と不審に思い読んでみると、方丈記と発心集に通じる災害描写の一例として、発心集4-9話〈武州入間河沈水の事〉が解説されていた。それは「入間川堤防内の河川敷に田畑を所有する当時の豪族・河越氏が、大雨による氾濫で屋敷ごと流され、官主と下男以外の家族全員が犠牲になってしまった。」というお話で、この恐ろしい水害の跡地(川越上戸)が気になり調べたら、現在は運動公園と野球場になっていた!

やへむぐら 拓く葦原いにしへの 田畑の夢に球ぞ飛びける (風間球太郎の詠める)

鴨ライバル

武蔵美学園在学中より30年来の旧友から「下鴨神社に行きた〜い」と連絡が来たのは、不思議なことにちょうど私が「鴨推しとして聖地に行かねばなるまい…」と考えている時だった。なんというシンクロニシティ!30年に及ぶ付合いは伊達ではない。友人曰く、高校の時から「鴨長明となら話が合いそう」と思っていたそうだ。サバイバル術と楽器演奏に長けて一人上手な鴨氏とお友達になりたい気持ちはよくわかる。また続けて友人はこう言った「鴨は風間さんが来るのを喜んでいる」と…。第六感冴え渡る彼女がそう感じたのなら間違いない。高次の幻に招かれて桜のころ、鴨バイブルを携えた私達は聖地(=下鴨神社) 方丈ハウスへと向かう。

(30年前の影を慕いて…)
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空蝉師匠(塙先生)と美しき鴨ライバル(aya)と私

乞食者の詠める

蟹の気持ちを代弁したアニミズム詩人はエリック.サティと宮沢賢治ぐらいだろうと思っていたが、(なんと!) 万葉集の中に蟹本人になりきって哀切を歌った作品(16-3886)があった。
それは歌集に登場する色んな身分の中でも特に異質な〈乞食者〉と称する人が《蟹のために痛みを述べて》作った長歌で、大意は…「入江に作った葦の庵でひっそりと暮らしてた私(カニ)が急に宮廷に招かれた。楽師でもないのになぜ喚ばれたのだろう?頑張って歩いて行くと職人が上等な塩を用意しており、その塩を私の目にまで塗り込むのだった。私を食べるのでしたら、せめて美味しいと賞めてください、賞めてください。」…と、蟹の心情が切切と伝わってくるもので、私はこれを読んで今まで食べた蟹たちに「ごめんね、美味しかったよ」と詫びを入れたい気持ちになった。

乞食者の詠める二首(3885/3886)は、貴族に捧げられた鹿と蟹が絶命前に「命をとるのなら残った肉体だけでも賞賛して欲しい」と乞う内容で、献身の美徳というよりも、殺生と美食を貪る貴人に対しての静かな抵抗を感じ取ることができる。
作者の乞食者(ほかいびと)とは現代でいうルンペンではなく、家々を訪ね歩いて祝い言を唱えることを生業にする門付芸人のことだという。そのような非定住民だからこそ、制度内に暮らす常民にくらべ自由な表現が可能だったのではないか?と私は推測する。たとえ貴族から「こんな批判をする奴は誰だ!」と苦情があっても何処か知らない地に移動すれば良いのだから……。もしかすると漂泊の〈乞食者〉を騙る古代のアナキストが詠んだ歌なのかも?(そんな万葉ロマンを夢想するのも私の自由)

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乞食聖コレクション

先日ご紹介の鴨バイブル『鴨長明全集』には、方丈記/全歌集/無名抄/発心集が収録されており、全てが原文に近く読むのが困難。和歌まではどうにか読めたが、中世の文芸評論「無名抄」は内容が専門的で難しく、106の僧侶エピソードとそれに対する長明の意見を収めた「発心集」は仏教用語頻出でさらに難しい。
「発心集」の梗概によると…〈高僧と呼ばれるのが嫌になって船頭さんに転職した例、真のアウトローを目指して狂人のふりをし続けた例、公衆の面前で自殺をし有名になろうと企んだが失敗した例、俗世にいながら芸術活動に没頭することで解脱した例 〉などなど、106話にわたって初期鎌倉時代における宗教人の面白い有り様が書かれているという。

個人的には、俗世間に所属しながら(在宅で)高次の人間にステップアップできる方法に興味津々。芸術の仕事をあとどれくらい頑張ればいいのか教えて〜!手っ取り早く知りたいので、原文の 解読アッサリ諦めて 現代語文庫を買わむとぞ思う。(決してズルではない)

さすらいの乞食聖コレクション (絵葉書より)
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モジャモジャ動物園

あと数日で50歳になる自分自身に誕プレを与えてやりたい…。すっかり鴨ライフへの志を忘れて(物欲に駆られ) ホワホワの可愛い鴨やカルガモのぬいぐるみ画像を繰返し見続けていたら、その影響がとうとう夢に現れた。それはこんな内容だった。
頭の毛が特徴的な生き物を集めた〈モジャモジャ動物園〉という企画を動物園でやっていたので見に行くと、飼育員さんがハゲタカ、ダチョウ、七面鳥などの頭にシャンプーの泡を乗せて洗髪してる最中だった。どちらかというと頭頂の羽毛が薄い感じの鳥たちで全然モジャモジャではないし、獣がいる様子もなく鳥類ばかりだったので〈モジャモジャ動物園〉とは偽りのタイトルだなぁと思った。(泡の帽子をちょこんと頭に乗っけている鳥たちの無表情が可愛かった)

大阪名所 天王寺動物園 (絵葉書より)
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「あなたはだあれ?」

(窓黒連載)祝1000回記念!

回数が表示されないため皆さんにはわかりませんが(実は!)今回で更新1000回目になります。日頃ご愛読の姿の見えない読者諸氏の皆々様、誠にありがとうございました!
2013年開始当初から、読んでも全く為にならない事柄にこだわり、SNS社会と隔絶された一隅で「何の役にも立たない情報」の発信に特化してまいりました。今年で9年目に突入し尚いっそう自己完結な内容を充実させてゆく所存です。無責任極まる当ブログ(窓外の黒化粧)を今後も引続きご愛読くださいますよう何卒よろしくお願い申し上げます!

【1000回ご愛顧感謝号】
本日は記念として、とびきり役に立たないミニ情報「ビーバーの微細変化」を掲載!

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北陸の揚げあられ『白えびビーバー』の袋にいるビーバー像が密かにマイナーチェンジされたことを皆さんご存知か?顔に縦線があり小柄なのが2020年までのビーバー、模様が排除され股が丸っこくなったのが新ビーバー。ダーっと水で濡れたような描線があったほうが川に生息する動物っぽくていいと思うけど、親しみやすさUPを狙い修正したものと推測。ビックリした顔のように見える足の裏は新型にも継承された。

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(どの味も美味しいビーバー)
私はノドグロというお魚を食べたことがないので味の特徴がよくわからない。

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(素朴な疑問ですが)
袋の写真はカレーではなくトンカツでは?手前にちょろっと見える液体がカレーなのか?(この料理は何かと問われたら私はトンカツと答える)