日別アーカイブ: 2022年2月26日

ヘビを捨てて山に行こう

特急ちちぶ9号に乗車し西武池袋線仏子駅〜元加治駅間の入間川橋梁を渡る。かつて秩父平氏一族が統治してたこの一帯は、発心集〈武州入間河沈水の事〉の現場からさほど遠くない。お話の主人公・管主は、漂流する屋敷の上で従者から「海が間近に迫ってます!早く逃げましょう」と促され濁流に飛び込んだ。必死に泳いで葦原にしがみついてると、流れてくるヘビたちの恰好の拠所になってしまい、どうにか浅瀬にたどり着いた時も巨大なヘビが何匹も巻きついたままだった!

屋敷ごと海に流出とあるが実際のところ川越から海まで流されるのに如何程の時間を要するのか?現場の上戸運動公園から荒川合流地点まで15Km、河口(新木場)まではトータル62Kmもある。氾濫時の急流は秒速4mほどだそうだから「62.000m÷4=15.500秒(258分=4.3時間) 」かな?この計算が合ってれば4時間18分でけっこう長時間。なので、すぐ海に流出とは考えられず、おそらく関西人の鴨長明は川越市が内陸部にあることを知らずに緊迫する状況を表現したのだろう。

大量のヘビがニョロニョロ絡みつく気持ち悪さを「地獄の苦しみ」と強調し、水から上がって真っ先にヘビをむしり取ったことが書かれてるので何か仏教的示唆があるのかと思ったけどヘビに特別な意味はないみたい。結局この話で鴨長明が云いたいことは「厭離の心を発すべし」の一語で、天変地異/家庭不和/世界動乱といった恐ろしい時局と付き合わずに世を捨てよう、という些か無責任な遁世の推奨だ。謎なヘビのくだりは「纏わりつくヘビをかなぐり捨てるように社会通念のしがらみを捨ててもよろしい」みたいな隠しメッセージなのかも?

発心とは、M.シュティルナー、辻潤にも通じる虚無的個人主義に近い。それは単なる厭世ではなく、無用な軋轢を回避する和平の知恵だとも言える。(同門のマルクス&エンゲルスと思想を異にしたシュティルナーは偉い!革命は絶対的指導者を誕生させる。平和のためと嘯く詭弁上等なボルシェビキの悪霊をどうしたらよいか?)

新版『発心集(上)』4-9話より
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屋根の上に妻子を残し濁流に飛び込む管主と従者の図

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グーグル地図の距離計測機能を利用してみた