旅のアリバイ

平安時代の歌人・能因法師は、白河の関に行ったことがないのに「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」と詠んで、そのアリバイ作りに京都の住居敷地内で日焼けをし、いかにも長旅から戻ってきたような顔になってから発表した…。という出所不明な面白エピソードを持っている。
この嘘か誠か怪しい話を知ってか知らぬか、のちの世に西行が、そして西行を尊敬する芭蕉がこの白河の関を訪れ、(日焼けした)先達に倣って作品を詠み、放浪の僧に憧れて同じ東北地方を旅している。昔の人にとっては和歌集が旅行のガイドブックで、ルートも風景も歌から情報を得ているのだなぁと、現代人とは比べ物にならない旅への情熱に、驚異の健脚ぶりも含めて感心した。
私の場合、東北旅行は新幹線を利用するし、健康的なアウトドア派のように日焼けもしない(外出の際は紫外線予防)。そして旅行の案内は本からスマホに代わり、図書館でコピーしたガイドブックや地図の携行は今は昔となった。


IMG_2777
旅行を捏造するなら、行ったことのない場所の絵葉書でも送ろうか?