クリスマス休戦

いつも微笑みを絶やさず、自身の神経を擦り減らしてまで誰にでも優しく接する不思議な友人がいる。あるとき本人の口から「私には性別の意識とか恋愛感情が無くて、他人への関心も薄いので、その欠落を補充するために常に親切を心がけている」と聞いて私は深い感銘を受けた。
人間はもとより他の動物も、愛情は生まれついての本能だと疑わないところがあるが、彼女は生来の超ニュートラルな性質に粘り強く肉付けをし続け、現在の博愛的人格を形成したのだ。もちろんそれは意識的な演技から始まったものかもしれない、しかし長年の自覚と鍛錬により「真心」となって定着し、その人の周りには平和がある。

『Xmas truce』は、不穏な『Ypres fog』を平和的場面に改竄した作品だ。くたびれたイギリス兵とドイツ兵が煙草の火を分け合っている中央の絵は、第一次世界大戦中の1914年冬に奇跡的に発生した「クリスマス休戦」を記録した報道写真が元になっている。この心温まる名場面が国際社会向けの演出(ヤラセ)なのか、今となっては定かではない。だが、憎悪広告でないことは確かだ。(たとえ偽りでも)束の間の寛容さを何度でも繰り返し重ねてゆけば、いつかはこの107年前の光景のような友愛精神が定着するかもしれない。

Xmas truce
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薄っすらと刷った『Ypres fog』に樅の木を描き足して木版画をシールのように貼ってみたヨ。

(謎のハの字座り)
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第一次大戦期のドイツ兵集合写真では、かなりの確率で前列の2~3名がハの字のような横座りしている。男同士で肩を寄せ合う姿はとても微笑ましいが、何か伝統的な意味でもあるのだろうか?

(サンタさん有難う)
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クリスマスの朝、こんな木製Mark.1が枕元に置かれていたら…子供は歓喜の声を上げるだろう!

イープルの霧

複葉戦闘機、重機関銃、潜水艦、巨大戦艦…。産業革命以降はじめて世界的に拡大した戦争、第一次世界大戦は、さながら近代科学兵器の大見本市のようであった。その中でも戦車の誕生は、大量殺戮時代の幕開けを告げるエポックメイキングだったといえよう。

肺の森シリーズ『Ypres fog』で肺のような形に左右対称に解体されたMark.1戦車は、世界初の実用戦車で産業革命のご本家イギリスで開発された。塹壕戦を突破するため、全長10m近くもある巨体にぐるりと履帯を巻いた菱形戦車は、初期型ゆえに欠陥が多く、乗員をもっとも苦しめたのは劣悪な車内環境だ。換気設備が無く極狭の操縦席にはエンジンの熱気、硝煙が充満し、時にはガスマスクが必要だったそうだ。
そして息苦しいタンクの外はさらに地獄!雨あられのように弾が飛び交う砲撃戦、精神を切り刻む塹壕戦、悪魔の所業のような毒ガス戦。ノイエ.ザッハリヒカイトの画家、オットー・ディックスが描いた傷痍軍人たちの悪夢そのもののグロテスクな世界…。逃げ場のない恐怖は、想像しただけで息が詰まりそうになる。(この正気を失わせる戦場でハンスは姿を消した。)

Ypres fog
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1917年、ベルギー西端部イープルの戦いでドイツ軍がマスタードガスを兵器として使用。本格的な化学戦はこれが最初だったという。糜爛性ガス「イペリット」の名前はこれに由来する。

(もう一つのMark.1mark1)mark1
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『黎明のマーク1』(2012年)
福島第一原発1号機に内蔵された米国GE社製の格納容器、その名も[Mark.1]。奇しくも同じ名前の型落ち欠陥タンクは容器の体積が小さく、これが水素ガスが充満し爆発した一因だとされている。(画面下方では戦車Mark.1が土木作業に従事している)

LUNGENWALD

さあ大変! (予想どおり)緊急事態宣言が延長されそう!TCAA展が再開できるのか、ますます不透明に…いや若くは中止となり幻の第6回ディスリンピックになってしまう可能性だってあり得る。
今日も明日も観客の来ない灰色の四角い部屋は閉ざされ、私のZauberbergや肺の森たちはひっそり眠り続ける…。今回は幽閉中で暫く会えない「肺の森シリーズ」について解説しよう。

環境問題を語るとき、森林地帯のことを「地球の肺」と比喩することがある。樹木はCO2を吸収し、生物の生存に必要なO2を大気に放出する「肺」のような働きをしてくれるので森林を伐採したり燃やしたりしたらダメだヨということだ。やりたい放題の人間様が何を今更だが、新型コロナウイルス感染症で今はその人間様自身の肺が一大事!肺炎が重症化するかしないかが生死の境目。森林大火災よりも肺の機能死守が喫緊の死活問題に…。

LUNGENWALD
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「肺の森シリーズ」6点の1作目のタイトル『LUNGENWALD』はドイツ語の肺=Lungenと森=Waldを繋げた造語で、各肺葉をくまなく巡る血管を樹木の細かい枝に、それを護る甲冑のような肋骨と背骨を幹に見立てた絵になっている。枝葉が枯れると光合成や呼吸ができず死んでしまう「地球の肺」同様に人間の肺葉も、血管や肺胞などが炎症でやられると呼吸ができず死んでしまう。

LINDENBAUM
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『LUNGENWALD』と同じ版木を利用した『LINDENBAUM』では、枯れた肺の樹がハート型に転倒し再生とLOVEを象徴してる。これはトーマス・マン『魔の山』のハンスが雪山で見た幻視によって「二元的な
対立より愛」だと(一瞬だけ)開眼したことと、青春の儚さと過去への執着、そして諦めを連想させる作中登場のシューベルト「菩提樹の歌」をイメージした作品で、素朴でロマンチックな図像は、20世紀初頭ドイツの印刷物から引用している。 

たまには人間らしく

昨年夏の日産AA展示作業中に発症したモノモライは、赤味と腫れをうっすら残して治癒したが、数日前にまた、患部を5mmほど右にスライドさせ再発した。いつもの眼科に行き、いつもと同じ手順で診てもらい、ついでに悩みの種のモノモライ痕について相談すると「はぁ、どこですか?全然わかりませんけど」と素気無く返されションボリ…。「自分にはわかるのですが」と軽く反抗してみると「じゃあ塗り薬も出しますね」と気休め程度の処方を施される。私「どうしてこう何回もモノモライになるのでしょうか?」眼医者「風邪に罹りやすい人と同じでモノモライに罹りやすい人がいます」と身も蓋もないQ&Aを最後に診察室を出る。

先生は冷たいし、またモノモライが痕にならないか心配だし、やんなっちゃう!さっさとランドに帰って手作りポプリの匂いでも嗅いで癒されよう〜っと。このポプリは、友人がくれた芳しいバラの花束から、ハラハラと零れ落ちた花弁を拾って乾燥させたものなのだ(たまには人間らしい趣味もよかろう)。完成品はさぞかし良い香りと思うでしょう?(ところがどっこい)とても変な匂いになりました!


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枯草臭に支配されつつあるバラの芳香。そこにトルコ産の薔薇油を垂らしたせいか、なんとも形容しがたい攻撃的な匂いになってしまった!(蓋を開けると咽せる)

ゾンビの代謝

2004年に美浜原発第3号機タービン建屋で発生した蒸気噴出事故は、冷却設備配管のつなぎ目付近で気流の渦がクルクル回り続けたストレスにより、金属管の厚みが10mmからMAX1.4mmまで磨耗し破損。そこから一気に噴出した高熱蒸気を浴びた下請け作業員が5名も死亡したという痛ましい大事故だった。どうしてこんなに薄っぺらになるまで配管を放置してたか?それはその問題箇所が運転開始から28年間も「点検リスト」から抜け落ちてたせいで、劣化配管の交換をしていなかったというお粗末な理由からなのだ。
原発寿命40年説は「定期的に部品を交換し、新陳代謝させて若返らせてるから大丈夫」という主張に基づいてるのだが…。「点検リストに載せ忘れた」という凡ミスの軽さと、失われた命の重たさのギャップに驚愕する。配管の模型を美浜原発PRセンターで見学しやるせない気持ちになったが、あれから二年、この原発が寿命40年説を覆し延命されるという報道を聞いて再び驚愕!そして国から1基につき25億円の蘇り応援予算がつくというので3度驚愕&戦慄!(カーボンニュートラル実現を口実にしたゾンビ計画の恐ろしさよ…)

 

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オリフィス(結合部品)付近で偏流が発生し続け薄くなった金属管

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その誓いは本物?

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島のような美浜原発だが対岸から見ると意外に近い

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(飲んでも大丈夫な)トリチウムくんの兄貴分、プルトくんのボールペンや美浜原発PRセンター特製あぶらとり紙など、魅惑の原発グッズ展示中の東京都現代美術館は休止中〜

見えない猫

冬の終わり頃、郵便受けに尋ね猫のチラシが投函されていた。行方不明の猫はオレンジ色っぽい茶トラのオスで名前はスー。母は偶然近所で見知らぬ茶トラ猫を見かけて、どんな顔か見たくて尾行したが見失ってしまいそれっきりになってたが、その数日後に同チラシが届き「この猫だ!」と思い、さっそく飼い主と会ってスーちゃん発見の協力を約束したのだという。
あれから実家の玄関前にはドライフードが盛られたお茶碗が置かれ、家出猫捕獲のチャンスを狙っているが未だ目的は果たされていない。エサが減っているのは別の猫か動物が食べてる可能性大なのだが「スーちゃんが来ている」と母は断言する。ナメクジ除けの塩を撒いた玄関前にお茶碗を置いて、母は今日も姿の見えないスーちゃんを待っている。

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表裏一体「ツァウバーベルク」

私が版画を学んだ武蔵野美術学園は実技中心の授業内容で、大学のような学科というものが無く、教室内での制作以外は、講堂で年に1〜2回ゲストによる特別講演があったぐらいだった。在校中に私が聴きに行ったのは、学園出身の油絵画家(お名前失念)とシンガーソングライターの長谷川きよし氏の2名のみで、どうして長谷川きよしさんが学園に招ばれたのか今でも不思議。まさか銅版画家の長谷川潔と間違えたなどということはあるまい。講演は「別れのサンバ」や「黒の舟歌」などを聴かせてくれる会ではなくて人生について語ってくれた会だったと記憶している。

このように学術とは無縁な学校にいて、私のアカデミズムへの渇望はあらぬ方向(ほとんど妄想)へ向かい、何かの本で見た抽象的な略図とその解説の真似事のようなことをするまでに至った(下の図参照)。

東京都現代美術館で開催 (本日より休止の) TCAA展『Magic Mountain』のために書いた論考《魔の山考〜菩提樹に寄せて〜》内の〈考察の破片etc.〉(ホワイトアウト)でちょろっと書いた「私はハンスと同い年の頃、おおよその二元的概念は表裏一体という結論を出した」という一文は、学生時代に考えてた自己満足な理屈で、学術への憧れのほとばしりであった。あれから26年、この二元的概念の表裏一体性を応用し、制作したのが新作『ツァウバーベルク』なのだ。

 

(A群: 光/生/白) ↔︎ (B群:闇/死/黒)
二元的要素の表裏一体性について
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①図:水平の境界線上下に分かれたA群とB群
②図:境界線両極=C極とD極が結ばれたことによって内包されたB群と外部に置かれたA群

応用1: 骨壷理論
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境界線を外殻(壷状の容器)に見立てると、
内包されたB群は「あの世」、外界のA群は「この世」として成立する。
壷の開口部はABの往来が可能で、あの世とこの世は遮断されておらず、むしろ表裏一体であると言える。(骨壷をイメージすると分かり易いであろう。)

応用2: 版木の表裏一体
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彫ったところがわかるように予め表面を墨で黒く着色した版木。無傷の版木を刷ると真っ黒いベタのままで「闇」の状態だ。そこを刃物で彫ることで白(光)が出現し、暗黒から世界が立ち上がる。
版木は骨壷とは逆に「光を内包している」と言える。

応用3:ツァウバーベルク
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上部は版木「昼=生の世界」
下部は版画「夜=死の世界」
この作品は、小説『魔の山』の主人公ハンスの「湖面に浮かべたボートの上で、西に太陽、東に月が見える昼夜の同居した不思議な時間を体験したことがある」という回想から着想を得た。(①図の応用でもある)

【お知らせ】
緊急事態宣言発令により本日より5月11日まで東京都現代美術館は休館 ( ; _ ; )/~~~
しばらく『Magic Mountain』はご覧になれません。再開したらよろしくお願いしま〜す。

やさしい奇跡

(ランド執務室に於ける秘密裏の酒宴、その朝に) アルコールの影響なのか変な夢を見た。どこかの劇場の後列座席で、あまり興味のないイタリアンオペラを鑑賞していると、通路前方から見覚えのある白人男性が歩いてきた。薄いピンク色の微妙な感じのシャツに白いジーパン、キラキラした鋲のついたベストを着用した死んだはずのペーター・ホフマンは、空席を探すように悠然とあたりを見回してから私の隣に座った。「こんな近くに憧れのスターが!」ありえない状況に興奮した私は不躾にも彼に話しかけてしまった。「あなたのパルジファル、ジークムント、ローエングリンが好きです」私のデタラメな英語にもローエングリンそのままの優しい微笑みで頷いたホフマンは、ポケットから白くて小さい小鳥の卵を数個取り出し私の手のひらにそっと乗せた。手品のような奇跡に呆気にとられたまま幸福感で目が覚めた。( TCAA展が始まって1ヶ月ほど経ってようやく悪夢から解放されたのだ)

スターの休日ファッション
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蝶が乱舞する素敵なシャツを着たこのドイツ人がヘルデンテノールのスター、ペーター・ホフマンその人だ

法螺吹けども踊らず

濃い霧に包まれた高尾山山頂「プオオォ〜プオオォ〜プオオォ〜」と一斉に吹かれた法螺貝の音とともに背広姿の男たちがロープを引く。もたもたと引っ張られ無様にずり落ちた幕からモニュメントが現れパラパラとまばらな拍手が送られる…。巨大でも小さくもない中途半端な五輪マーク立像が、オリンピック開幕100日前を記念して高尾山に建立されたというこのニュースを、一昨日三度もテレビで見て「この風景は吉村さんの絵だ!」と私は着座したまま振り返り、背後に飾られた絵画と見比べた。(これは似てる!!)
この絵はC.D.フリードリヒ風の灰色に煙る山に(見る者もいないであろう)虚空に向けて五輪マークが屹立としているという水彩画だ。寂寞感が一周回って滑稽に見えるこの絵画に酷似するニュース映像は信じたくないけど現実で、この間抜けなセレモニーにも私の納めた血税がお役に立っていることだろう。幻の為にお金を使ったり法螺を吹くのはもう止めていただきたい。(法螺貝を吹いた山伏は無償ボランティアか?)

ニュース映像より
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吉村宗浩さんの作品『大地は永遠なり』
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【ROADSIDERS’ weekly】より
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あの都築響一さん発行のウェブ雑誌【ROADSIDERS’ weekly】にて、特集記事『風間サチコさんと登る魔の山』を掲載して頂きました!!開催中のTCAA展からかざまランドの秘密まで、美しい写真と詳細な取材報告が楽しめる充実の内容です。興味のある方は是非とも購読してください!(下の写真に吉村さんの絵が…)

窓黒の初心

「展覧会開催に間に合うのか?」と焦りに焦った地獄の季節は過ぎ、スリル中毒を存分に味わった後に訪れたのはこの虚脱状態、俗にいう燃え尽き症候群だ。確定申告で納税する金額にガッカリした気分も上乗せされ、何にもヤル気がせずに終日ボ〜っと過ごし「これではいけないなぁ」と一日を終える早朝に反省する日が続く。(せめてブログの更新ぐらいはしなければ!!)
…思えばこのブログを開設した目的は、8年前の六本木クロッシング2013展に出品した『人外交差点』の作品解説をするためであった。それも「インターネットで展示の告知をした方がいいわよ」というキュレーターさんから頂戴した助言でやっと重い腰をあげてのことだ。そう、連載当初は現在のように変な紙物や変な夢を紹介する変態趣味のブログではなく、作品への理解を求める真面目な内容だったのだ!…私は窓外の黒化粧開設の初心「自己完結の溶解」を思い出し、都現美で開催中TCAA展の作品解説(主に新作コーナー)をしようかと考えてる。さてと…何から書こうかな?

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