FLOW(沖つ国/不老山)

石巻展用新作『FLOW(沖つ国/不老山)は、3月に宮城県東松島市の野蒜海岸で見た岩・不老山がモチーフで、主題に関しては昨年1月の段階で既に出来上がっていた。
防潮堤のきわにある不老山をあの世とこの世の境界に見立て、左右対称の作品にするという記述が1月のメモ写真に残されており、メモの内容は難解で書いた本人(私)にしかわからず、メモの実物は今どこにあるのかわからない。(このようなアイデアメモの紛失がままあるので記録写真が不可欠)

茶封筒メモ (怕物歌三首より、万16-3888)
IMG_2737
〈奥つ国 領く君の柒屋形 黄柒の屋形 神之門渡る〉
生死を隔てる境界線=防潮堤の内と外、現世(陸地)と常世(海上)を去来する船のイメージが完全一致の不気味な歌は、万葉集こわい歌シリーズ3首のうちの一つ。
他の2首は「天国みたいに静かな大草原で突如ウズラが一斉に羽ばたいたからビックリしちゃった」というあまり怖くないものと、「雨の降る通夜で青い顔の人魂になった君と再会したよ…」という少し怖い歌。

(下絵)
FLOW(沖つ国/不老山)下絵のコピー
〈黄柒の屋形〉は木製軍艦「安宅船」かムー読者にはお馴染みの「うつろ船」のような巨大船と想像する。(技法は昨年作『ツァウバーベルク』と同じく木版画と版木を使用する予定)

見慣れない漢字「柒(ぬり)」は漆の俗字で、「染」とは別の字。岩波文庫『新訓万葉集』では「染(しめ)」と訓読されており、これは誤読ではないかと思っている。また「丹塗り」の解釈が多勢だけど、私は朝鮮半島産の「黄漆」なのでは?と推測している。