温室のミューズ

紫外線を嫌って夕方から動き始める生活パターンは人様から「ドラキュラ生活」と揶揄されて久しいですが、ここ数日間、憎たらしい春の強い日差しに眉間をゆがめつつ、彼方此方に外出しております。先週の金曜日は横浜美術館「石田尚志/渦まく光」展の内覧会、土曜は目黒区庭園美術館「幻想絶佳 アールデコと古典主義」展と五反田遊古会、日曜は買い物、月曜は上野の森美術館「VOCA」展を観に、と部屋を飛び出して美術鑑賞と古本探索です。人間らしい活発さを取り戻し、脱ドラキュラする日は近い(かな?)。
早く行かなければ〜と駆り立てられながらも、結局終盤になってしまった「幻想絶佳」展は眼福の極みでした!第一次大戦と第二次世界大戦の狭間で爛熟期を迎えたフランスのアール・デコ。今回の展示されたこれらのブルジョア芸術(フランスのデコは上流志向)の至宝の数々は、パリで催された1925年「アール・デコ博」1931年「植民地博」、相次いで造船された豪華客船などを彩った古典主義の作家達の芸術作品です。それは完成された人間の美を誇る「古典主義」の再発見によって、彼等成功者の世界をとりまく繁栄気分を存分に捉え、超ブル社会など覗いたことのない私どもにも強烈に伝えてくれるお宝たちです。
朝香宮邸・本館は、ラリックやブルーデルで飾られた絶佳空間で、お目が高いオバサマ達の口から「はぁ〜ステキ♡」と深い溜息を誘う超一流品の坩堝でした。そしてアンリ・ラパンのファンタスティックで構築的な室内装飾!私はこの「人類の室内装飾の絶頂」を目の当たりにし、完璧な人造形態を備えた空間に於いて「自然=植物」は無用である!という決定的な結論を鼻先に突きつけられた思いがしました。(窓ガラス越しの緑陰は必要)冬から抱えっぱなしの「観葉植物問題」の糸口がココにありそうだけど、超絶絶佳すぎて庶民レベルの問題まで引き下げるのは、ちょっとおこがましいですね。
この日もっとも激しい印象を受けたのは新館ギャラリーでの展示。これはヤバい「水晶宮の美術」です!ほとんどの作品がパリの博覧会、豪華客船、公共施設を飾る目的で制作された作品や、その下絵や模型です。第一次世界大戦後の特需に沸く資本家たちの祝祭ムードを祝福する、古典的主題のギリシャの雄々しい神々、獣の姿を借りた神と戯れる女神達。その図像は何だかイビツに怪しい健康美を孕んだ「我が世の春」の美しさなのです。「狂騒の時代」の最上階から臨むことはないであろう「夜の果てへの旅」に描かれた、地を這う最下層の闇黒を頭の片隅に配置しながら鑑賞すると、その成功と勝利と支配の美に、なお一層ギラギラとしたコントラストが加わります。
そして。「幻想絶佳」展のメインビジュアルとして、ポスターやチラシに印刷されているウジェーヌ・ロベール・プゲオンの衝撃的絵画『蛇』は、なんと表現したらいいやら…凄い!そう、全てに於いて。…男性的な白馬2頭と一糸纏わぬ美女が2人、そして黒いギャルソンヌ・ルックの中性的な人物。彼等が繰り広げる享楽の密室劇は、あられもなく白昼の強い日差しに晒され、非現実的な光景として現れます。観客は、背景に散らばる謎解きの小道具を一つ一つ拾うことを余儀なくされ、幻惑の世界に引きずり込まれていく感覚を覚えるのです。色彩と巧みな描写によって完璧なミステリーが構成されてる。こんな「変」で魅惑的な作家と作品を知らなかったなんて!(さっそく画集を探してみましたが、無いですね)
…時代の栄華を飾る博覧会の美神。彼女等は、長い船旅を経て植民地から取り寄せられた、熱帯の植物のように若々しく野蛮。閉ざされ蒸せる温室の中で「常緑」の夢を見続けている…。永遠に若いアール・デコ様式の空間で、ブルジョワジーの泡沫の夢を覗くことの出来る素晴らしい展覧会でした。大満足。(幻想絶佳展は4/7まで開催!)

追記:世界初の国際博覧会「ロンドン万国博覧会」の会場は、鉄骨とガラスの大伽藍「クリスタル・パレス」です。マルクスから「盲目的な資本主義崇拝」ドストエフスキーからは「合理主義的決定論の権化」と批判された水晶宮ですが、ここから温室ブームがはじまり、産業革命で大気の煤けたロンドンでは温室の作れない中流階級のあいだで、部屋の中で植物を愛でる「観葉植物」が流行したそうです。なーるほど。観葉植物がコロニアル風でプチブルな理由がそこにあったか。(別に植物が憎い訳ではない)植物を置くべきか否か?まだ答えは出ない…。サボテン&多肉はどうにか頑張ってる!

2015-03-28 13.45.05
庭園美術館は何回訪れても新鮮です。

へび
ウジェーヌ・ロベール・プゲオン『蛇』1930年頃
眩しすぎるっ!ぬらっとした平坦なマチエールにゾクゾクします。

2015-03-31 01.12.39
敗北感。余白にも植物にも負けた…

2015-03-31 01.41.12
台所の闖入者、蔓★延太郎はぐんぐん蔓延り中!

犬
撮影モデルを真面目に務める犬と撮影に夢中な飼い主。
花見は呑川に限る!ただし地雷(犬の排泄物)に要注意。

2015-04-01 00.32.30
十年程前に奇しくも同じ横浜で観た「フーガの技法」の感動。
その感動は今も変わりません!皆さんも執拗な優雅さに酔って下さい。

『石田尚志 渦まく光』 横浜美術館にて5月31日まで開催です!