当方、アンチ・プロ(美術)ですが読み出すと結構ハマる雑誌、またまた同じく「文藝戰線」から、書評欄より。
….「私は自らこの本を選んだこと今になって悔いている。この本は決して構成主義の理論ではない。もしこれがヨーロッパに於ける構成主義の理論であったならば、十分に批判することも出来るだろう。然るにこれは何処迄も過去の詩人が書いたものと等しく、何等理論的根底のない感情の表現でしかないのだ。」….後悔までさせる本!それは『けれども地球は廻ってゐる』イリヤ・エレンブルグ 著、八佳利雄 訳です。
ほぼ毎日、大正10年から昭和8年までの書籍をヤフオクで検索しています。だいたい内容は未知なので、タイトルと表紙だけで「これは!」と思った本をジャケ買いしてます。いままでの経験では、昭和2年〜7年が「アタリ」が多いです。戦前の先鋭文化が盛んな時期です。…そのなかでもこの本は「大アタリ」でした!
まず表紙。構成主義の評論という内容と廻る地球のイメージですが…ゆるい。リシツキー名人のようなピリっと感ゼロの構成派です。むしろ、こっちの方がいいかも〜な可愛さ。レモンイエローの絵の具みたいなインキもたまらんです。(イニシャル A.m.d とありますが装幀家でしょうか?)
そして、一番感動したのは「活字」です!詩集「死刑宣告」の神タイポグラフィーが好きすぎるので、大小の活字に無条件に反応してしまいます!…強調したい箇所が急にデカ文字になる。文藝戰線では「文章の遊戯—これは非常に読みにくい」と書かれてます。分かってないな〜。暴力的で元気いっぱいの文章と、自由奔放な活字がなんとも楽しい本ですが、内容は概ね、19世紀ヨーロッパ文化の否定と、インターナショナル構成主義と工業製品の賛美に尽きます。いささか幇間的なのでウンザリします。そしてタトリン推し!!!!
「一般の、全時代的の、全人類の藝術、インターナショナルの藝術が来るのである。…..ゆっくりやって来るだらう。何故なら仲へ入った死骸共が勇敢に寝ころがって、たとえ一日でもこの避け難き来訪者を止めようとするからである。」「百年の後には藝術は男色やモルヒネ中毒と双んで、気狂ひのつまらない氣まぐれにもならう。しかし、今や新しい技術が、仕事日の現實の胸の中にはぢまる。これは、構成主義の勝利である。」「私達は、タトリンのやった『第三インターナショナル記念塔』のプランを見た後に、幻想的な状態におちたのだ。理由なしにおちたのではない、明白に。…皇帝ペテェルブルグの廃墟の上で、子飼の白鬚の予見者は(技巧的な見地から)、明瞭な測量に達したのだ。新しい建築が始まるのである。」….面白いので沢山引用してしまいましたが、
終始このテンションです!!パリのカフェーに唾を吐き、フリルやレースに火を放つ。美術館鑑賞よりも工場見学を推奨、美術家より労働者をリスペクト。労働者と制作したタトリンは偉大!排雪機関車と安全剃刀と昇降機を俺は愛するーーー!!!! な感じです。
戦争を「小商商人の鎮魂祭」と否定しつつも、築堡、機関銃、大砲の壮観を讃えてます。その気持ち分かります!私も戦争全否定ですがトーチカと砲台が大好きです!過去に機械と制服(社名入り菜っ葉服)に憧れて町工場の労働者になったこともあります。工場は働くよりも見学程度が良いという結論に至りましたが…。なのでエレンブルグ氏の異常な愛情は理解できます。
でも、ここまで幇間的に賛美する理由は、このエレンブルグが「フランス帰り」のボヘームなブルジョワジーだったことにあるのでは?邪推してしまいます。ロシア革命後の隆盛極めるロシアに帰国し、「ロシア人」の批評家として、ロシア・アヴァンギャルド乗り遅れ感とヨーロッパかぶれ感を払拭したかったのではないでしょうか。
文藝戰線はこう評します。「これがたとえ立派な理論でないにしても、小ブルジョアの藝術である構成派に対して批判すべきであって、この本を此のまま受け入れたとしたらそれこそ大変なことになる。」「とにかく八佳氏が他の人が訳しそうもない此の変な本を訳されたことは、色々の意味に於いて無駄なことではないだろう。」…文藝戰線もロシア構成主義の建築写真とかバシバシ投入してるのに何故に?ロシア革命を肯定して、構成主義を否定するこの複雑さ…。屈折してるな。
翻訳者、八佳氏の言葉。「起重機の美を理解する人は、この書の見方である。地球は廻ってゐることを即ち時代の進化を認識する人は、この書に萬歳を送るであらうことを僕は信ずる。」翻訳者の作者に対する熱い共感が、このゲキアツ(きのう電車の中で業界くんがゲキアツ連発で失笑)の書を生み出したのですね!文藝戰線に酷評されても、けれども地球は廻ってゐるのである!!!

『けれども地球は廻ってゐる』イリヤ・エレンブルグ 著、八佳利雄 訳
昭和2年7月10日初版:原始社

唾を吐きかける者からー「自警」を経てーはらきりへ。
…藝術はあらゆる國に於いて、市民戰の風邪の中に引き蘢ってゐる。便利のため四つのインターナショナルな群れをあげやう。
一、はずれた齒止めをもった盲目の「創造者達」
二、迷える群れ(時として天才的な。)
三、無頼漢達。
四、正直なる労働者達—構成主義者達。

とうとう「第三インターナショナル記念塔」が完成したのか?!
と思ったら合成写真だった…。タトリンタワー格好いい〜!
