影をなくした男

一昨日、日差しの眩しい昼下がりの街頭で、「うわ〜大変!大変だ〜影が…影がない!」と叫声を発し、自転車で右往左往しながら狼狽するお爺さんを見かけた。もしも本当に影を失くしたのなら、ご老人はすでにこの世のものではない (あの世の住人には影がないという)か、もしくは悪魔のような存在に影を売り払ってしまったか、そのいずれかだと思われる。

読んだことはないけど、あらすじは知っている小説『ペーター・シュメールの不思議な物語』は、自分の影とお金が湧き出る袋とを交換してしまった男が、影のない不都合から人生を狂わせ、悲観にくれて不思議な袋を廃棄し放浪してたら、今度は千里でも万里でも飛ぶように歩ける不思議な靴を入手、そのおかげで自然科学者になって成功した。…といった変に都合のいいお話で、この物語にどんな教訓や寓意が込められているのかは不明。たんに作者シャミッソーが自身の職業(自然科学者)を自慢したいだけのような感じもする。

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ドイツ表現主義のシャープな影法師
E.L.キルヒナー画「ペーター.シュメールの不思議な物語」