詩人の死

昨日6月27日は詩人の石川善助の命日で、正確にいうと行方不明になった日である。1932年のこの夜、石川善助は酒亭・白蛾にて知人と飲み会をしたあと、一人で帰宅途中に雨で増水した側溝に転落。もともと足が不自由なところにお酒が回り、自力で這い上がることができなかったのであろう、と言われている。行方が分からなくなってから七日後、下水道で水死体が発見され詩人仲間に衝撃を与えた。享年32歳の若さだった。
石川善助の書いた北海の漁場風景を硬質な言葉で綴った詩には、鉱物や化学物質の名詞が多く登場する。でもなんだかそれが、ちょっと背伸びをして頑張ってるように見えて私はあまり好きではない。それよりも詩人仲間の尾形亀之助が書いた追悼文『石川善助に』が好きで、これは普段の善助の姿をスケッチしただけの淡々とした文章なのだが、その観察眼が友人に対する愛着を浮き彫りにし、泣けてくる。(生前に一冊の詩集も出せなかった一人の詩人の後姿を思い出す、梅雨らしくない風が強くて暑い夜です)

〈詩集・亜寒帯〉
IMG_8789
没後5年に逸見猶吉、草野心平、宍戸儀一らの有志によって刊行された。

(最後の詩に)
IMG_8790
子供、おまえのいであはいつも壊され、
にがい退屈のなかに坐って、一日悲しく泣くであろう…
(何物も生ずることも滅することも無いのだ。無生とは何ぞ?)