海辺にて

今週の[朝日:歌壇俳壇]挿画はシューベルト歌曲《海辺にて》からの着想です。「あの時以来僕の身体は憔悴し、心は憧れに死んでゆく。あの不幸な女が、彼女の涙で僕に毒を注いだのだ。」このハイネによる陰鬱な詩の一節を元に、海岸での出来事に執着したまま岩礁と同化した男。その背中の潮溜まりには決して干上がることのない涙を湛えている…とこんな情景を想像して見ました。
この絵の(写真を見て描いた)海岸は実在し、ハイネの詩情とは全く無縁の、至極マヌケな思い出が私にはあります。その海岸は三浦半島の先端東側に位置する「毘沙門」と呼ばれてる岩礁地帯で、当時小学5年生で三浦半島の更生施設(区立健康学園)に入所してた私は、磯生物の観察か何かでその毘沙門へみんなで遠足に行きました。
遠浅の岩場にはいろんな生物が生息しており、特に宝貝の貝殻が無数に落ちてました。「宝貝は古代の貨幣である」という予備知識から、私はものすごく価値のある貝だと思い込み、
現代の通貨ではないタダの貝殻をポリ袋に集めることに夢中になった!そして…気がついた時には仲間の姿は見えず、静かに足元まで押し寄せて来た満ち潮に、帰る道を奪われる寸前でした!思いもよらぬ速さで海面が迫ってくる恐怖は現実だったのか?それとも夢だったのか?今でも記憶が混乱することがあります。

シューベルト歌曲集:白鳥の歌より《海辺にて》
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なぜ小学生の私は貨幣(貝殻)に執着したか?
健康学園では現金の所持が禁止されており、寮母さんに預けた1ヶ月500円の予算から必需品(ノート/鉛筆/石鹸/歯ブラシなど)を購入しなければならず、それも外出禁止なので廊下に下がってる「買物依頼ノート」に品名を記入し、寮母さんが代わりに買ってくるシステムになっていた。
そんなことでお金への憧れが強烈だったのだと思う。(今はそうでもない)