不易流行

〈寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋〉
これは芭蕉が敦賀半島・色浜を訪れたときに詠んだ句で「源氏物語などで〝寂しいムードの須磨が最高〟と賞賛されてるけど、色浜の海岸風景の方が優ってると思う」と、概ねこのような意味である。古典文学をリスペクトしながら、己の審美眼の確かさを先人に誇るような強気な句だ。
このように過去を尊びつつ、常に新しさを求めることが芭蕉の説いた〈不易流行〉だが、これは現代にも通用する我ら芸術愛好家向けスローガンだと言えよう。

昨年12月、私は松尾芭蕉の賛辞(造化の天工)に憧憬を抱き、(株)ニュー松島の遊覧船で松島見物をした。しかし古絵葉書の美しい勝景が脳内に刷込まれていたので、痩せてエッジの甘くなった島々を前にして正直ガッカリしてしまった。度重なる津波など自然による侵食なので(ああ無常!)、これはこれで致し方ないが、芭蕉がここを訪れた333年前はもっとシャープで格好いい島々だったはず!
…そうだ、心静かに333年前の松島湾を想像し、不易流行の『ニュー松島』を描くことにしよう。

(忘却に亡ぶ不老山)
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かつては「松島絶勝 不老山の景」と紹介されてたここ奥松島の不老山一帯だが、3.11大震災後の防潮堤工事で盆景のような構図はすっかり寸断され破壊されてしまった。この絵葉書は「野蒜埋立地海岸ノ景」と題されており、明治初期の大失敗土木事業「野蒜築港」の名残を写している。
石巻展は、アルミ絵画『ニュー松島』の他に『のびる築造』『FLOW(沖つ国/不老山)』の三作品を制作する予定。誰が詠んだか不明の「沖つ国」で始まる不気味な歌のように、不穏と未知に満ちた新しい作品にするつもりです。