わくらばを…

ここ数日、仲宗根美樹の歌う『川は流れる』を覚えようと聴いているのだが、スローテンポな曲であまり抑揚がなく、半音上がったり下がったりする箇所がとても難しい。発音も独特で「れ」は巻舌で「レェ」、「は」は「ファ」に近く、初めて本人歌唱を聴いたとき仲宗根美樹さんは外国の人かと思ったら沖縄出身の人だった。
『川は流れる』は藤圭子、美空ひばりもカバーしていて安定の上手さだけど、1961年発表の仲宗根美樹オリジナルが抜群に素晴らしい!極端に遅いテンポと間の長い歌い方は、能の謡曲や和歌の読み上げを彷彿とさせ若者の無常観を描いた歌詞に合っており、歌謡曲なのにうつし世の遣る瀬なさを詠んだ万葉の歌のように聞こえる。琉球の言葉には古代日本語の発音の名残があるというから、不思議なイントネーションがより一層いにしえのセンチメンタルを連想させるのかも?

歌い出し「病葉(わくらば)を きょうも浮かべて」の病葉とは、青葉が繁るころに季節外れの紅葉化をした葉っぱのことで、夢と希望を抱いて上京した若者が都会の厳しさに疲れ、急速に気持ちが枯れてゆく様を病葉になぞらえたのだろう。汚い水が夕日の反射でキラキラと綺麗に見える時間、ドブ川を眺め「嘆くまい あすは明るく」と自ら励ますが、その言葉とは裏腹に明日もきっと暗そうだ。

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(あすも明るく)