ワーグナーの椅子

一日中掘りごたつのヘリに腰をかけて過ごしているので、椅子は生活する上で必要ないのですが、突然「椅子欲しい病」に罹って早2ヶ月。さっき家に椅子が届けられこの病からやっと解放されました〜!そして、例の如くヤフオクでの購入です。欲しい気持ちに取り憑かれてから「どんな椅子がいいか?」と悩みつつ、毎日ヤフオク検索してるなかで「やっぱりミッドセンチュリーじゃないな」という結論が出た。年季の入った「本物」っぽいイームズとヤコブセン、暮らし系オシャレの若夫婦とかが好きそうなカリモクとかマルニの昭和レトロなソファーなどは今も人気継続中のようですね。そりゃあ私でも名作椅子やGマークの良さはわかりますが、しかし、人間の暮らしに寄り添ってくれる穏やかな造形が今の気分に合わない…。人間工学など無視した乾いたデザインの椅子が欲しい!でもそれってどんな椅子だろう?具体的なビジョンのないまま検索を続け、とうとうこの椅子に出会いました。
最初、画像で見たときはカジュアルなスツールだと思い、うっかり流しそうになりましたが、タイトルの『オットー・ワーグナー:ウィーン郵便貯金局の椅子』に「へえ〜」っと驚きました。オットー・ワーグナーといえばウィーン分離派の巨匠建築家です。分離派は、19世紀末の有機的な装飾と近代的な機能美、相反する要素の融合とせめぎ合いが「不穏」な印象を与える(そこが良い)アールヌーヴォーとアールデコの過渡期に位置する様式です。不勉強なことに、郵便貯金局の建築と内装を知らなかったので、ザ・分離派建築のゼツェシオン館(オルブリヒ設計)の印象から、この郵便貯金局のモダンな椅子に分離派の歴史を感じることが出来なかったのです。
もちろん、私の購入した椅子は復刻製品で本物ではありませんが、偶然、出品者さんが世田谷区内の方だったので直に届けてくれ、色々と教えてくれました。なんと出品者さん自身がこの椅子のリプロダクトをしたそうで、30年程前(まだバブル時代か?)曲木技術で有名なトーネット社の代理店に勤務してて、この椅子の復刻企画のために、ウィーンの郵便貯金局まで出向き本物を採寸して設計図を引いたとのこと。その図面をもとに当時のユーゴスラビアの旧トーネット工場(第二次世界大戦後、東ヨーロッパの分断とともにトーネット工場も分断。共産圏に残った工場は旧トーネットと差別化されています)で100本ぐらいのエディションで生産されたそうです。その話を伺うと、リプロダクトとはいえ貴重な物だな〜と。シェルチェア、セブンチェア、アントチェアの「リプロダクト」「ジェネリック」は五万と巷に溢れているが「郵便貯金局の椅子」はお目にかかった事が無い!
100年以上も前のデザインとは信じ難いモダンさ。そして人間が座って「心地よい」という椅子の価値を排除した「建築空間での美しさ」のみに特化した造形!なんて冷徹なんでしょう!すっかり惚れましたー!…しっかし意外に大きいサイズで、この座敷では浮いた存在に。バーンと広い空間に置かれた写真では小さく見えたのだが。ここはウィーンでないのでしょうがないな…。

2015-02-20 16.46.51
プラスチックと金属に見えますが木製。
座面には長方形の穴と、方眼状に丸い小さい穴があけられ簡素な装飾となってます。
曲木の脚はネジで固定されて、ネジの頭も装飾に利用されています。
スツールというよりテーブルに見えてしまう西欧人サイズ。
座った感じはビール箱と大差ないが…。だがポイントの高さはそこにある!

郵便貯金局
「参考写真」ウィーン郵便貯金局 1906年竣工
おお!水晶宮のよう!透明感あふれる空間にO・ワーグナーの調度品が並んでます。
剥き出しのアルミのダクトやボルトも装飾にするなんて未来世紀先取りしてる。

2015-02-20 21.13.15
こちらは昨日商店街で拾って来たパイプ椅子2脚とお盆のような物。
潰れた靴修理店で廃棄処分になってました。
拾って来たのと同時にワーグナーの椅子も届いたので、急に椅子が増えた。