BEATとHIP

「ビートになるか、ヒップになるか」…これは1968年に発行された北田玲一郎の著『乞食学(ビートロジー)入門』で提示された選択肢。さて、どっちになるか?
冒頭から、ビートとは?ヒップとは?その言葉すら意味が分かりません。なんら説明もなく、様々な考察をブっとばしてくるのがこの本の特徴。ビート=乞食と北田式に訳されてますが、これはアメリカ・ビートニク(筆者曰く隠者)に対して日本のビート族(哲学乞食)を意味してます。
では、「ヒップ」って何か?北田式にはヒップ=暴力団なのですが、たぶんヒップスターなのかな〜と察しつつ、いかんせんヒップスターと暴力団が結びつきません…。ヒップになるか、のヒップとはチンピラ、ヤクザ、ゴロツキのことです。むしろギャングスタ?黒縁メガネのクールなオシャレさんとは程遠いTheヤクザ。60年代にはヒップで通じる違う意味があったのかもしれませんね…。  タイトルは「入門」とまるで指南書のようでありますが、けしてヒッピーやフーテンを奨励してる訳でなく、空虚な時代を漂う若者の生態を観察し考察するのが本題なのです。この北田さん自身「タムタム芸術集団」を主催し芸術家(?)のたまり場を運営したりしてるのですが、ご本人はちゃんとカタギの暮らしをしてるので、観察対象のロクデナシ(私にはそう見える)との距離感が面白いです。
敗戦後の日本を反社会的な暴力行為で生き抜いてきた暴力団の「カツアゲ精神」vs 無銭飲食、無賃乗車、「旦那」からの貰い物で「自由」を実践する哲学乞食の「もらいもの精神」。ブタ箱行きへの薄氷を踏みながら狩猟的に生きるヒップと、虚無的、退廃的な世界観で絶対働かねぇ強い意志をつらぬくビート。反社会性と永久ストライキ実行という共通項以外は対立軸で語られる両者。
決定的な違いは、ヒップは極貧プロレタリアート出のしたたかさを生まれ持ってるが、ビートは中産階級家庭で育った受け身の弱さがある。というころらしい…。私はどっちもイヤですが。
…北田さんはビート族のなかから逸材「江良ビート」を見いだし密着取材をこころみます。取材のために旦那=タカりの対象になった北田さんと、取材をエサに巧妙にタカる江良ビートの「日本ビート大会」をめざす珍道中。哲学乞食=ビートの生態が道中明らかになってゆきます。
無賃乗車のテクニック、エピゴーネン(ビート模倣者、信奉者)を旦那にする方法、あえて無銭飲食して通報され「国立ユースホステル」警察の留置所を宿にすること、冬には「精神異常者」を演じて…キルケゴール仕込みのペシミズムの極北の芝居で精神病院(ビート語でいう〝白夜″の瞑想に耽り〝スイング″するには良い場所)で越冬。そして凮月堂やブルーノート、当時のゴーゴー喫茶では「天使」=ビートファンの女の子を「共有」!!
順応主義社会に背を向けた生き方に、そこはかとない逞しさやロマンを感じた北田先生も、このカタギの労働の上澄みをかすめ取るビートに次第に苛立ってきます。そりゃそうです。最大の目的だった「日本ビート大会」も江良ビートの勘違いか、計画的なミスか開催日を間違えて見れず!
しかも自分の失敗にもめげず「千円」を最後までねだる江良ビート。旦那になるまいと頑張った北田先生も、このしつこさに敗北。乞食=ビート生活3年生も伊達じゃない。
…で、その後江良ビートはどうなったか、という後日談はシラケました。就職して結婚!あんなに「ビートの姿を労働者に見せつける事で、労働が神聖という欺瞞を暴く」と鼻息が荒かったのにね。順応主義への反逆にも限界があると…。
北田先生の考察『乞食(ビート)ーこりゃいったいなんだろう。あんがい、戦後世代のこずるい、こざかしい、トッチャン小僧の青年たちがかんがえだした徹底的な利己主義(エゴイズム)の保身の術ではないのか。小市民(マイホーム)主義者後青年の思想発想と枝葉はちがっても、おなじ幹からでたものではないのか?一方が猫の額ほどの庭つき小住宅とマイカーのなかに閉塞するとすれば、一方はズタ袋と寝袋の座禅のなかに閉塞してこと足れりとするのではないか?』…..結局のところ、「おなじ幹」中産階級、プチブルから発生した枝葉は「スタイル」「雛形」に収まることで安息=閉塞の住処を得ることに帰結するわけです。どの雛形に落とし込むか?江良ビートが「乞食」から「小市民」へと、いとも簡単に転向したように境界は隔たっていそうで近い。プチブル土壌から発生した革命の、一瞬のキラメキを体現した江良ビートの顛末…。

ビートジェネレーション、アングリーヤングメンの波が、この日本ビート発生の起源のようですが、
ギンズバーグもスナイダーもバロウズも読んだことが無いので、今イチ背景がつかみずらかったです…。こういう本を読むと、戦前偏重の嗜好(自称・平成のアバンゲール)のせいで戦後の勉強が足らないことを痛切に感じます。恥ずかしながら坂口安吾も未読!だめだねー。
戦後日本=輝かしい復興という誇らしい図式の陰にかくれた風俗や犯罪に興味がわいてきました。
アプレゲールにあっきれげ〜る(こんなダジャレがあったような…)そんな事が知りたいです!

…この「乞食学入門」で、太平洋戦争の敗戦の要因を、首謀者「日本ヒップ」帝国陸海軍幹部が「暴力」は最終的に「金」に負ける法則に気づかずに開戦したこと(すぐジリ貧)と、日本ヒップの根底にある葉隠れの精神やヤマトダマシイが、真のヒップとして突き抜ける障害になっている。などなど独自の持論を展開しているところが興味深いです。(北田さんは軍事教練を受けた世代)
まだ60年代〜70年代には戦中派と「戦争を知らない子供たち」が混在し、いろんな世代で戦争を総括してたのかも…。空想的な民族主義、日本主義、国粋主義が亡霊のように浮遊し憑衣する今よりずっとマシな時代でした。

era
江良(阿部)ビート「一億総ルンペン化…これ、ぼくの革命観。」
永久ストライキ実現ならず…。

ビートvsヒップ
ビートになるか?ヒップになるか?…どっちも嫌だな。ていうか男しかなれないし。
(ウーマンリブを蹴散らす徹底した男性中心観点!タムタムイズム)