巨象の渚

「200円です」「え???」…始点(敦賀駅前)から終点(白木)まで1時間かけて20km以上の長距離を走行してきたのにバスの運賃がそんな安いはずがない。現に2つ前の停留所では電光掲示板に1050円と表示されていたのだ。もう一度運転手さんに「敦賀駅からですよ?」と確認すると「ここは敦賀市内なので200円です」とキッパリ言われ、終点まで乗車した唯一の客となった私は、釈然とせぬまま百円玉二枚を代金箱に投入し降車する。
この白木地区は敦賀半島の西側にあり、公共交通機関(路線バス)で行くことが可能な北端に位置する。今でも僻地の感のある鄙びた集落だが、高速増殖炉もんじゅの建設が始まるまでは山中の峠道しかなく、もんじゅのおかげでバスが来るような拓けた地域になったという。だが廃炉が決定した現在は、建設車両が頻繁に行き交ったであろう国道に自動車が時折通過するのみである。

「200円です」と運転手さんに言われ「ん?これも原子力開発機構の恩恵か?」と私が邪推した理由はこの〈もんじゅ〉の存在にある。原子力施設周辺のおごり体質は、過去20年の見学で既に知っているので、この激安運賃もその一つかと穿った考えが頭をよぎった。が、後で地図を見ると半島は西に美浜町、東に敦賀市と二分されており、敦賀市は中世のドラゴンのような形状だ。首の付け根に敦賀駅、そして口の先っぽにあたる白木が美浜町に食い込んでいる。確かに敦賀市内で間違いないが、経由してきた美浜町では妥当な料金を支払い、越境した途端に初乗り運賃に戻るとは?!キツネにつままれたような心持ちだ。

バスを降りると(誰もいない)
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この美しい秘密の入江には誰もいない。
遠くの防波堤に2~3名 釣り人の影が見えるだけ…

(あれに見えるはもんじゅじゃないか)
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砂の浜辺の隣に石ころの浜辺(そしてもんじゅ)
吹き荒ぶ風と打ち寄せる波の音だけが寂寞を破る。だんだん怖くなってきた…

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莫大な金を飲み込んだ白い巨象=無用の長物

(白木漁港にて)
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勇気を出して堤防を歩いてみたがここまでが限界(こわい!!)

(歩いて美浜に移動)
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もんじゅ建設のために開通された白木トンネル(全長736m)
無人のトンネルにゴーーゴーーゴーーーと絶えず大音響で風が吹き抜け大変に恐ろしい。ここは「あの世の入口」のような気がしてきた!(歩行中3台の車両しか通過せず)