光暈に消えた山岳

「太陽が眩しかったから」という変な殺人動機がフランス小説の中にあるが、私が山を見に行って山が見えなかった原因もまさにこれと同じである。ただし、地理と太陽の方角を事前に知ってたら回避できたミスであり不条理ではない。(よく見えないだけで山はそこに実存するのだ)
改札窓口で不足の乗車料を精算し西武秩父駅前に見たものは、初冬の力強い太陽を従えた武甲山らしき灰色の巨大な影で、ハレーションに霞んだ山塊は稜線すら確認できずのっぺりしている。「み、見えない…」しまったなぁと出鼻をくじかれた形で始まった旅程は〈羊山公園に登って武甲山を展望〉を後に回しにして〈横瀬のセメント工場を見物〉を先にしてから、日が傾くことを期待し夕方羊山に登ることにした。
だがしかし一駅前の横瀬に向かって逆行を決めたものの、都会ではお目にかかれない特大ダンプカーがガンガン走る日陰の無い国道を歩くのがイヤになってしまった。異邦人として石灰岩積載のダンプに轢かれるか?よしんば武州で死なずとも、容赦ない光線で眉間のシワと顔面のシミが悪化することは必至であろう。私は不安要素に負けて、セメント工場のある地域に到達する前にUターンし羊山を登ることにした。

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太陽に隠された全貌

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ヒツジヤマノボレ

(羊山公園からの眺め)
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日が西に傾きボンヤリと見えてきたが…

(スイッチバックで背後から流れる車窓風景)
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帰りの特急ちちぶ車中。やっと痛ましい山肌が見えた!