表裏一体「ツァウバーベルク」

私が版画を学んだ武蔵野美術学園は実技中心の授業内容で、大学のような学科というものが無く、教室内での制作以外は、講堂で年に1〜2回ゲストによる特別講演があったぐらいだった。在校中に私が聴きに行ったのは、学園出身の油絵画家(お名前失念)とシンガーソングライターの長谷川きよし氏の2名のみで、どうして長谷川きよしさんが学園に招ばれたのか今でも不思議。まさか銅版画家の長谷川潔と間違えたなどということはあるまい。講演は「別れのサンバ」や「黒の舟歌」などを聴かせてくれる会ではなくて人生について語ってくれた会だったと記憶している。

このように学術とは無縁な学校にいて、私のアカデミズムへの渇望はあらぬ方向(ほとんど妄想)へ向かい、何かの本で見た抽象的な略図とその解説の真似事のようなことをするまでに至った(下の図参照)。

東京都現代美術館で開催 (本日より休止の) TCAA展『Magic Mountain』のために書いた論考《魔の山考〜菩提樹に寄せて〜》内の〈考察の破片etc.〉(ホワイトアウト)でちょろっと書いた「私はハンスと同い年の頃、おおよその二元的概念は表裏一体という結論を出した」という一文は、学生時代に考えてた自己満足な理屈で、学術への憧れのほとばしりであった。あれから26年、この二元的概念の表裏一体性を応用し、制作したのが新作『ツァウバーベルク』なのだ。

 

(A群: 光/生/白) ↔︎ (B群:闇/死/黒)
二元的要素の表裏一体性について
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①図:水平の境界線上下に分かれたA群とB群
②図:境界線両極=C極とD極が結ばれたことによって内包されたB群と外部に置かれたA群

応用1: 骨壷理論
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境界線を外殻(壷状の容器)に見立てると、
内包されたB群は「あの世」、外界のA群は「この世」として成立する。
壷の開口部はABの往来が可能で、あの世とこの世は遮断されておらず、むしろ表裏一体であると言える。(骨壷をイメージすると分かり易いであろう。)

応用2: 版木の表裏一体
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彫ったところがわかるように予め表面を墨で黒く着色した版木。無傷の版木を刷ると真っ黒いベタのままで「闇」の状態だ。そこを刃物で彫ることで白(光)が出現し、暗黒から世界が立ち上がる。
版木は骨壷とは逆に「光を内包している」と言える。

応用3:ツァウバーベルク
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上部は版木「昼=生の世界」
下部は版画「夜=死の世界」
この作品は、小説『魔の山』の主人公ハンスの「湖面に浮かべたボートの上で、西に太陽、東に月が見える昼夜の同居した不思議な時間を体験したことがある」という回想から着想を得た。(①図の応用でもある)

【お知らせ】
緊急事態宣言発令により本日より5月11日まで東京都現代美術館は休館 ( ; _ ; )/~~~
しばらく『Magic Mountain』はご覧になれません。再開したらよろしくお願いしま〜す。