サクマ君

夏のセンバツ高校野球は早くも準々決勝まで試合が進んでますね。今年は東海大四の西嶋くんの超スローカーブが大きな話題となってますが、わたしは甲子園はドカベン的であってほしいと願っているので、どんどん魔球を投げてもらいたい!もっと欲を言えば、ブルートレイン学園のような高校野球なのにナイター?というズルくて珍妙な秘策も見てみたいです。球児がちょっと変わったことを試みると「高校生らしくない」と批判され「らしい」正攻法と爽やかさが求められてしまう昨今です。しかし戦前には野球そのものが学生が熱中しすぎてはいけない「非行」の要因とされる向きもあったのです。野球やテニスのようなゲーム性の高いスポーツは、軟派な遊戯のひとつと思われていたようです。
では、戦前にはどんな体育が推奨されていたのかというと、明治末期から日本に導入された「体操」が、国家の将来を担う健全なる体躯を作る有効な方法として推奨されてました。

今回ご紹介するこの『櫻井博士 體操講演集』も、国民の体躯向上を啓蒙する熱意あふれるテキストの一つです。櫻井博士こと恩師、九州帝国大学医学部教授医学博士櫻井恒次郎先生(長い…)は日本に導入された「瑞典式(スウェーデン式)體操」をもとに、学理的に研究された合理體操の普及につとめた研究者の一人です。このスウェーデン式体操というのはスウェーデンのリング博士によって考案された国民体操で、解剖学、生理学、物理学の見地から合理的に体力と体格を鍛錬する、肋木や水平台の器具を使用した徒手体操です。体操といっても現代の動的な演技の運動ではなく、決められた姿勢をキープしながら筋骨を鍛えるというとてもストイックな運動なのです。この体操の理論が基礎になっているので、この講演集もかなり学術的で、医学的根拠や力学からの解説が込み入っていて、学校の先生が使うテキストとしてもちょっと難しいところがあります。記した石丸節夫氏もそこを考慮してか説明を補う図が多く、そのことに触れて「挿入画の多きは、其の製版費に於いて多大の犠牲を払わざるべからず。随って非常なる国家奉仕の念を以てすれに非ざれば、到底企及し得ざるところなり」と国家的観念に基づき沢山の犠牲をこれらのイラストに払ったと説明されています。
たしかに初版が大正9年の本にしてはイラストが豊富で、この櫻井博士の偉大な教えを十二分にお伝えしたい、という思いは感じます。が、しかし。この図版の数々が致命的にヘタくそ!解剖図はお手本を模写したようでそれなりに良い感じですが、肝心の体操を解説する略画のキャラクターが超傑作なんです!「運動の説明にビリケン式の人形を用いた」のは櫻井博士の創案で、教授のさいとても便利なので是非ご利用を、と書いてるけど・・・とても頼りない。見れば見るほど愛おしい、心もとないこのキャラクターに私は「サクマ君」と名付けました。ビリケンというよりかサクマの「いちごみるく」みたいな風貌なので…。
それでは、サクマ君を紹介します!努力と忍耐をしいられた健気なサクマ君。その成長ぶりに皆さんも「頑張れ!」と応援したくなるはず。

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『櫻井博士 體操講演集 三訂版』石丸節夫 編(香川県琴平町 都村有為堂出版部/大正14年)
初版は大正9年で14年までのあいだに40版も発行されました。普及したのかな?
この表紙のイラストの人体がつかまっているのが「肋木」という体操器具。
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これがサクマ君!三角形の頭と真一文字の口がかわいいです。
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人類がいかにして直立したかを説明するサクマ君(拾い食い)
「犬や猫の様に、食物を摂るには口に持って行って食べて居たが、フト前脚で物を掴んで口へホリ込むことを知った」のが起ち上がったきっかけだそうです…そうなのか?
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支持点。静的努力!動的努力!動的努力!動的努力!動的努力!
厳しい姿勢キープで筋肉と骨格を鍛えるサクマ君。プルプル震えながら頑張っています!
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これはキツイ。両腕で肋木を掴みながら体を水平にキープ!こころなしかサクマ君の口元も力んでいます。だが、いつの間に棒切れの姿から肉体らしさが表れていることにお気づきでしょうか?
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見よ!このマッチョに成長したサクマ君の後ろ姿。
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そしてラスト・サクマ君….。
鍛え上げた肉体を資本に社会へ飛び出したサクマ君。葉巻を燻らす旦那サクマ君と人力車を引く車夫サクマ君。体育館の外には世知辛い階級社会が待っていました…二人の人生の分岐点はなんだったのだろう?頑張れ労働者サクマ君!
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付録*サクマ君以外の画伯のイラスト「脊柱湾曲坊や」不思議な魅力があります。

☆お知らせ☆
おもに日本のアーティストを紹介するサイト『Gadabout』で当方の作品と文章(赤い花)を紹介して頂きました〜。是非ご覧になってください!!