なんとなく、レトリック

なんとなく『なんとなく、クリスタル』を読んでみた。そう、あのヤッシーこと田中康夫氏を若干24才で時代の寵児へと開花させた記念すべき処女作『なんとなく、クリスタル』ですよ!
一橋大在学中に図書館で書いた小説を、河出書房の「文藝賞」(先日入稿した赤瀬川テキストも文藝。なんとなく、縁がありますね)に応募したところ見事入選!単行本はミリオンセラーの爆発的大人気!「なんとなく、クリスタル」も流行語に…と大快進撃だったのです。
1980年の5月に執筆、とあるので今から34年前になりますね〜そんな昔になるのか。80年といったら登場する女子大生のビジュアルは、あだち充の「みゆき」のイメージに近いと思います。しかし、登場するブランドをみてると「こんなにコンサバな流行だったかな?」という違和感も…小説の世界は、出典されてるファッション、音楽など結構70年代寄りのカルチャーです。
「註」が小説の半分を占める、という斬新な構成がセンセーショナルな話題となり、自身の作品を「オジンには理解できないだろう、ボクは大学でも異端児だったから。」みたいなポーズで本人は語ってます。この過去の話題作を今更読んでみた印象は「ファッション誌が『社会の窓』の24才の若造が、憶測を交えて書いた、童貞の鼻息のような小説」といった感じでしょうか?作品に漂う「若者の冷めた皮膚感覚」というドライな描写も、この時代のトレンド「しらけ」世代の自己主張にみえます。ようするに、自分は異質といった自意識とか、傍観者スタイル自体が流行ってたんですね。…な〜んて、今頃批評してもしょうがないけど。
それにしても「なんクリ」を読んでると、この文体をマネしてみたくなります。ってことは魅力があるのかな?今日は「なんクリ」レトリック&ロジック(というほど高度でない)で日記を書いてみようか、なんとなく。

サチコの住まいは桜新町(1)にある築60年の一戸建てだ。ミッドセンチュリー(2)といえばきこえはいいが、老朽化した木造家屋(3)にアーベイン(4)な香りはなく、古色はシャビィ(5)をとうに越えてしまっている。鬱蒼とした庭木は、往来のじゃまになるほど伸び、そろそろケガ人がでてもおかしくないほどだ。この荒廃した庭のせいで、いつも肩身のせまい思いをしているので、近所の奥さんに会わす顔がない。日が暮れて、人影が消えたのを見計らってから、サチコはやっと重い腰をあげたのだった。サザエさん通り(6)のモードオフ(7)で買った、H&M(8)のチュニック(9)をまとい、オルカイ(10)のレザーサンダル(11)をつっかけて、大きな植木バサミで、名前もわからない、ただ生命力だけはやたらと盛んな樹木を、バサバサと無感情に切った。「うちの植物は、ちっともわたしをハップ(12)にさせない。それどころかグルーミー(13)だわ…。」通りにはみでた枝だけで、東京都指定の40ℓゴミ袋(14)はたちまちいっぱいになった。素足にまとわりつくヤブ蚊をはらいながら、代々木公園(15)のデング熱(16)騒動を、ふと思い出し、なおいっそうグルーミーな気分になるのであった。

[註]
(1)桜新町:成功したカッペが住みたがる住宅街。サザエさんで有名。(2)ミッドセンチュリー:50年代頃のデザイン全般をこう呼びます。一点ものが好きな暮らし系に好まれます。(3)木造家屋:イノベーション物件はレトロでオシャレな住まいとして人気。(4)アーベイン:urbane  (5)シャビィ:shabby (6)サザエさん通り:桜新町の商店街。長谷川町子美術館とサザエさんに便乗して、ノラリクラリと経営するお店が多いのは嘆かわしいかぎり。(7)モードオフ:古本販売で有名なブックオフの系列店。中古衣料(モード)を底辺まで提供するありがたいお店。(8)H&M:スウェーデン発のファストファッションメーカー。有名ブランドのパクリデザインも多いので、工夫しだいでハイファッションに見せかけたコーディネイトが可能です。(9)チュニック:かぶるタイプのゆるいワンピース。主婦のたるんだ体型カバーにもってこいです。(10)オルカイ:ハワイのサンダルブランド。(11)レザーサンダル:ユッタニューマンなど、革の便所履きにしか見えないのに5万円以上する超高級アイテムもあります。(12)ハップ:hap (13)グルーミー:gloomy (14)東京都指定のゴミ袋:都民はこの袋でゴミを捨てます。ブランドのショッパーで見栄をはるのはNGですよ!(15)代々木公園:なかなかデートコースを増やせないカップルが、ご愛用です。ホームレスのキャンプ場。(16)デング熱:ヒトスジシマ蚊が媒介する熱病。代々木公園でダンスの練習をしていた学生が発病し、騒動になってます。

・・・[註] の鼻持ちならないかんじは、オリジナルを忠実に再現。シティーボーイを気取った東京情報、「辞書をひけ」とばかりに英単語はそのまま。ヤッシー何様?ってウザイ(グルーミー)気分になります。

なんクリ
「なんとなく、クリスタル」田中康夫 新潮文庫
オサムグッズ(懐かしい〜)で有名な原田治のイラストが表紙です。
c.a
わたし的には80年の名作はこれ!The Residents の「コマーシャルアルバム」
1分間ちょっきりの曲が40曲ぎっしり!…とってもPOP。いつ聴いても新鮮です。
1980年はどんなカルチャーだったのか?やっぱ「なんクリ」はダサい。

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