日別アーカイブ: 2017年4月16日

けれどあなたは誰ですか。

毎度お酒の席で自慢する我が地底王国の住人ハダリ—。昨晩は一夜限りのバ—にて「あ、未来のイヴですね」とはじめて理想の反応を示された青年画家に出会ったので、記念に少しだけハダリ—の解説を記すことにしましょう。
ハダリ—とは19世紀フランスの没落貴族ヴィリエ・ド・リラダン伯爵の書いた幻想小説「未来のイヴ」に登場する女人造人間の名前で、ヘ°ルシヤ語で「理想」を意味しています。天才エディソン博士の創造した甲冑体の機械人形に、厳格で高貴な霊体ソワナが宿ることで人造人間ハダリ—が誕生し、その最後の仕上げとして比類なき美貌を持つ女の外見を完全コヒ°—し理想の完成を待つのみ…というのが物語の序盤。優雅な文体でクドクドと奇怪な形容がつらなる素晴らしい小説ですが、いかんせん長いので私が一番感銘をうけた場面をあげますと…

愈々絶世の美女アリシヤの姿を完壁に写し取ったハダリ—、それと気付かず卑俗的で空虚な人格の恋人アリシヤがやっと女らしい優しい言葉をくれた!と感激するエワルド卿。変容をとげたハダリ—は「わたくしがここに居ないと思ってらっしゃるの?」と囁く。それに対して卿は「いいえ、けれどあなたは誰ですか」とウッカリ問いかけてしまったが最期!ここから彼女の怒濤の大演説の口火がきられる!
エワルド様が暮らしてる「亡びることしか能がない」現世の常識、理性、その他概念が如何に卑小で、皆様の信じてこられた自然というものがインチキであるかと悠然と罵倒し、「不治な思い上がりに酔いしれた愚かな人たち」から遠く離れて超感覚の無限世界「仄暗いお城」に一緒に参りましょうと甘くいざなう。
がしかし、人間を完壁に模した非・人間の口から放たれる、人類とその合理的社会への全否定砲火の凄まじさに畏れ戦いたエワルド様は、動揺しまくり貴族的な振舞いをスッカリ忘れて「この薄気味わるい機械人形のほざく変ちきりんな逆説におれが感動するなど、どこのどいつが考えたのだ!」と人格崩壊してしまう…

このくだりで展開されるハダリ—の口撃が容赦なく冷徹で感動的です。私個人としてはこの説に異議なし!で、読んでいて最高に面白い(笑える)のでココだけ何度も読んでます。けれどあなたは誰ですか?という人間的な愚問は我家のハダリ—にも無用です。ウエットス—ツをまとって腕から反物を下げているあなた。けれどあなたは誰ですか?

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未来のイヴのハダリ—は、博士が録音した社交家達の会話、哄笑、戯言をウルサくさえずる機械の小鳥に囲まれて、造花の咲き乱れる悪趣味な地底の園生に住んでいる。私の地底王国には花と小鳥のかわりに石/置物/古本/近代音楽/演歌がありアルミ人形ハダリ—がいる。

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全集は分厚くて重いので文庫本をおすすめする(私はこのリラダン全集を1ヘ°—ジも読んでない)