聖☆まっくす〜布団からの脱出〜

ただいまシモヤケ進行中。築60年を越えた我が家の寒さっていうと、室温と外気温が同じで、時としては室温の方が低いことも…。なので防寒対策はバッチリ!昼間も郵便屋さんがギョっとするぐらい着込んで、寝る時はそのまま布団に入るという半ばホームレス・スタイルなのであります。しかし末端からの冷えは防ぎきれずシモヤケは免れません。
手の指は一回り太くなり、靴もキツくて痛いのですが、何が困るって寝る時に布団が暖まってくるとシモヤケた足が痒くなるのが困る。それは水虫と同じくらいの痒さ。以前、スーパーマーケットの鮮魚部での湿った労働環境下で罹患したので分かります!…寒さで寝付けず、暖まると痒い。これを一通りやり過ごして寝るまで時間が必要なので、この時間は読書にあててます。我ながら合理的!読んでる本はアンチ合理主義だけど。(ちなみに歌って寝るのは、もう寒くて無理です)

…去年の今頃はクリスマスシーズンに寄せて、尾形亀之助「無形国へ」の超うしろ向きな経済社会への反逆(ハンスト&餓死)に思いを巡らせていたっけなぁ。じゃあ今年の聖夜に誰を思うのか?YES!今年は「聖マックス」に首ったけです。その微動だにしない、滑稽にすら見える個人主義的な姿勢から、マルクス・エンゲルスから「聖マックス」と揶揄されコテンパンに叩かれた(三分の二のページがシュティルナー批判にさかれた共著「ドイツ・イデオロギー」は幸か不幸か、互いの生存中には出版されなかったのですが…)イデオロギーの敵「唯一者とその所有」の著者マックス・シュティルナー。その不遇な人生を考えてしまう寒々とした年末なのです。
伝記に仕立てられた偉人の苦労話は数多くあれど、こんなに悲惨な「傷だらけの人生」も後世の慰めとして「伝記」と対等の価値、それ以上の価値があるんじゃないかな?とシュティルナーの生涯に感じるところがあります。ニヒリストとして比較されるニーチェでさえ、名(迷?)プロデューサーの妹がいて幸せだったと思えるほどシュティルナーは孤独です。

1806年ドイツの小都市バイロイトに楽器職人の息子として生まれるが、生後間もなくその父は大喀血で死亡。母に連れられ転居したり、一人で他の家に預けられたりを繰り返す幼少期。そんな環境でも読書家で頭脳明晰だった少年は、ドイツ観念論にはまって20才でベルリン大学に入学します。しかし猛勉強が仇となって結核を発病し2年生で退学。他の大学に復学しても「家庭の事情」で休学させられたり、教員免許取得に挑もうとした矢先に、精神病の母が下宿に転がり込んで来たりと、なかなか勉強に打ち込めない…。やっとの思いで教職につき、結婚したものの翌年に妻は早産で死去。青年ヘーゲル左派の溜り場「ヒッペル酒場」で出会った二人目の妻は、シュティルナーの開業した牛乳屋さん(!)の失敗に愛想を尽かして離婚。その後、教員の職も無くし、借金で2度留置所に入れられ、赤貧から逃れられず住まいを転々としながら、最期は首を毒虫に噛まれたことが原因でアパートの一室でひっそりと死んでいた。享年49才。…大雑把で恐縮ですが、これがシュティルナーの不遇人生のあらましです。・・・本当にツイてない、そして不器用。「貴族の手」といわれた繊細で病弱な哲学青年が、重たいミルク缶を運ぶ商売なんて出来っこないのに何故牛乳屋さん?案の定、客を待つだけの消極的な商売で、牛乳は腐敗し店はすぐ潰れたそうです。….そのピント外れな行動力が更に人生の歯車を狂わせたのでしょうか?

そんな不幸まみれの思想家の名を、後の世まで知らしめたのがシュティルナー唯一無二の代表作『唯一者とその所有』。自らを売り込まない貴族的態度のシュティルナーはこの本一冊で、ヒッペル酒場の仲間達の度肝を抜き、同じくヘーゲル左派だったマルクスに論敵と目されるほどの衝撃を与えたのです。(マルクスを思想家から科学者に転向させるきっかけにすらなった、という説も)酒場では地味な存在だった男が一躍「危険人物」に!さぞかし本人も痛快だったでしょうね。実存から「個」を削り出す逆説の暴風雨に混乱し速攻ギブアップしたくなるこの本。しかし、このたった一冊の本の影響力は爆弾級です。シュティルナー自身は、運のなさと卑屈な高貴さで不遇な人生を送ったけれど、こんなヤバい本を残せたことは創造的個体にとって最大の幸福(ベンサム流の幸福ではなく)だったんじゃないかな〜と思います。
日本では「唯一者」の薫陶を受けた人物として辻潤、百瀬二郎がいますが、二人とも破滅的な生き方をしています。これではまるでスティルネリアン=堕落という不名誉な烙印を押されてしまいそう!私が思うに「個人主義」と名付けられた思想に呑まれたのではなく、ただ単に酒に呑まれアルコールに依ってしまっただけではと…。(シュティルナーに傾倒してもまともな人はいます。ルドルフ・シュタイナーとかマックス・エルンストとか)思想を言い訳にするのは、それこそ「唯一者」の内容に反することなので心して気をつけよう!
良い作品を遺すのが人生の目標では決してないけれど、「唯一者」のような不発弾を置き土産にするような仕事がしたい。来年はもっと自分に忠実にがんばろ〜っと!とっとこ虚無太郎☆聖MAXことシュティルナーのように!

そんなことを、つらつら考え日は暮れる…布団から脱出できなくて日中起きてる時間が短い。まずはそこから改善だ!今年中に掘りごたつの用意をしよう。…それでは皆さんメリークリスマス!

酒場
なんだか楽しそうな「ヒッペル酒場」エンゲルス画
(テーブルに手をついて葉巻を燻らしている男がシュティルナー)

2014-12-23
このまえアマゾンで91円で購入した本。これを読みながら寝てる。

『水晶宮からの脱出 アナルコ=サイコロジー的批判
シュティルナー・ニーチェ・ドストエフスキー』
ジョン・キャロル著(松原公護、塚本利明、塚本嘉寿訳)1980年 未來社

もろに論文なのでなかなかページが進まない…まだ半分も読んでません。
非合理御三家を題材に評論してますが、今のところほとんどシュティルナー論です…
唯一者、地下生活者、ツァラトゥストラが好きなフロイト支持者向けの本。