日別アーカイブ: 2014年4月16日

五本の指を握りしめ…

甲種、乙一種、乙二種、丙種、丁種、戊種。これは戦時中、日本で行われていた徴兵検査のランク付けです。甲は身体剛健、乙は健康、丙は欠陥アリ、丁は障碍者、戊は病中病後という今だったら差別としかいえない規格が設定されており、一番等級の高い甲種合格は、世間的には男子の誉れであったようです。
この『甲種合格者の心得』という小冊子にも、冒頭から「徴兵検査で合格されたことは諸君が身体強健、品行方正、志操堅実な模範青年であられた証査で、御本人にとっては嘸かし御本懐のことなるべく、国家の為には誠に慶祝に堪えない次第であります。」と甲種合格が選ばれし者であることが強調されています。しかしこれは、直ちに入営し軍人として国防の第一線に立たされるということを意味しているのです。
甲種諸君がいかに国防の重任を双肩に担っているか…!「実に厳粛・崇高、何と申してよいか表明の言葉もありません。どうかしっかりやって来て下さい。」と感極まった語調で、入営前でドキドキしている青年の純情に訴え、半ば洗脳的な小冊子がこの『甲種合格者の心得』です。
入営前の心構え(健康維持、家族の心配事を処理しておく、摂生と規則正しい生活を身につける、教練の予習をする…)と、陸軍大将3名のありがた〜い訓話が書かれています。まあ内容は想像どおりで、皇国と日本国民の優秀性、国體への崇拝、戦争の大義などですが、一番気になったのはカリスマ大将・荒木貞夫の訓話です。天皇陛下が「一つの心になって、力を国家の保護に尽くさん」が為に下し賜った「五ヶ条の御訓諭」を守り、軍人精神の充実と研鑽をせよ。と力説しているのです。その刷り込み方法がスゴイ!以下、イラストで解説します。

甲種
『昭和十五年度改正 甲種合格者の心得』(帝国軍事教育社)
5指.
〜五ヶ条〜
一、軍人は忠節を尽くすを本分とすべし。(忠節=拇指)
一、軍人は礼儀を正しくすべし。(礼儀=人差指)
一、軍人は武勇を尊ぶべし。(武勇=中指)
一、軍人は信義を重んずべし。(信義=薬指)
一、軍人は質素を旨とすべし。(小指=質素)

…国家の親である大君に忠節を尽くすのであるから、拇指は忠節を代表する。人と人の間の親和を計り秩序を正しくするのであるから、人差指は礼儀を代表する。中指は、何事をするにも、真先き
に働くから武勇を代表する。薬指は、伸びるも屈するも、他に従うものであるから、信義を代表する。小指は五指の中で一番小さいから、質素を代表する。と、こう定めたとして、どれが一本不用というものはない。五本の指が揃って、始めて手の働きが出来る。

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一本一本、別々に働くよりは五本が一緒に握られて、一つの拳になった時に、一層その力があらわれる。その握った形がすなわち『誠』であって、開けば五ヶ条となり、握れば誠となるのである。
…一つに握られた方が、岩をも砕く拳となるように、五ヶ条を身に体して、これを貫くに誠を以てした時、最も力強くなるのである。
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故に諸君は、拳を開いて、拇指から順に、忠節、礼儀、武勇、信義、質素と指を折り、最後に力強く五指を握って『誠』と口ずさみ、寝ても起きても、これを繰り返して忘れぬように心掛けねばならぬ。一日もこれを忘れては、軍人の本分を尽くすことが出来ないのである。
(寝ても起きてもこの洗脳指体操か〜。荒木大将の発案?)
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最後に、このペラペラの小冊子が、この分厚い本を売りつける為の「広告」だったいう事実が…。
本文中も「教練の予習に最適の本があります。」と幾度か紹介されて怪しかったが。まさか!
「世界を相手に、敢然として立った日本帝国の第一線を守る、我が親愛なる甲種合格諸君に
確乎たる自信を以て本書を捧ぐ!」「模範兵となって郷里に錦を飾りたい人は今すぐ申し込め」

=入営時に堂々と持参することを許されている日本唯一の軍書=
この本しか持参出来ない!?絶対に出版元が陸軍OBか、何らかの癒着があるに違いない。
今年度入営者だけの特別価格とか、振り込み用紙とか、やたら月賦を勧めたりだとか….。
露骨なセールスに陸軍大将の志し高〜い立派な訓話もぶっ飛ぶわ。。。