日別アーカイブ: 2014年11月27日

誰かエリゼを知らないか?

エリゼ二郎。画数少なめのヨーロピアンで素敵な名前!ちょっとそこの曲がり角までスキップしてクルッとターンしてきたくたるような、こざっぱりとしたお洒落感。この勢いでサルトル佐助、とっとこカミュ太郎と続けたいですね!ところでエリゼ二郎をご存知ですか?
…エリゼ二郎とは百瀬二郎の別名で、このエリゼは地理学者でエコロジカル・アナキストのエリゼ・ルクリュから拝借してるそうです。百瀬二郎という人は大正時代の「非行動」のアナキスト、ニヒリストで、主に思想研究と翻訳の仕事をしていた人物です。後世に名を残した数少ない功績はというと、プレハーノフの「無政府主義と社会主義」の翻訳と、マックス・シュティルナーとジョルジュ・パラントを、日本でいち早く研究し紹介したことで、当時はスティルネル学者と目されていたほどだったようです。スティルナーと言えば辻潤ですが、私が初めて百瀬二郎を知った著書『大正自由人物語』(小松隆二著)によると、訳者が有名ではない百瀬では本が売れないので、新居格や辻潤の名前を借りて翻訳本が出版されてた、とあります。どおりで名前が残らない訳だ、そんなこともあるんですね。辻潤の翻訳本「唯一者のその所有」については触れられてませんが、これは辻単独の仕事であって欲しいな…。
百瀬二郎のことはネット上でも得られる情報は乏しく、この『大正自由人物語』で収集された資料をもとに浮き上がらせた人物像を知るのみです。ここでは「世紀末のダダイスト」と小松氏に称され(ダダイストではないと思う。辻潤の自称ダダの悪影響か?)、大正時代のダメダメなリバータリアンっぷりが描かれています。早大中退、慶応に再入学するも社会主義同盟の執行役員になり、危険思想で退学処分。それが原因で親から勘当され、いざ本気で社会主義活動に没頭するのかと思いきや、趣味的にしか関わらず。その後、独自に虚無思想の輸入をし、翻訳と紹介をして注目されるも、気まぐれな性格なので本腰を入れて没頭することはなく、ただ趣味の園芸と酒に浸り、あっちの家、こっちの家と居候生活をのらりくらりと続けるばかり…。とこんな体たらくです。同じく思想家で翻訳家の大正リバータリアン、低人ディレッタントの辻潤は、60才で餓死しましたが、百瀬は長年の飲酒生活がたたってか、肝臓癌を患い57才で亡くなりました。まあ、早死にってほど早くもないが、健康長寿という穏やかさでは無いですね。
彼らは自殺ではありませんが、徹底的個人主義者のジョルジュ・パラントについて百瀬が書いた『ジョルジュ・パラントの死』(いきなり死!)という文章では、個人主義と自殺の関係に触れられています。(パラントという名前は、この文章で初めて知りました)ちょっと引用してみます。
「…自己主張に余りにも忠実な彼は、この八月の6日彼のテオリイの命ずる通りに、自殺—しかも短銃でドンと一発—と云うのだから、その真剣味には酔っぱらいといえども打たざるを得ないでないか〜〜一般的には、マックス・スチルナアの思想を以て個人主義の最高峰に上りつめたものと見られているが、彼の個人主義すらまだまだ不徹底であると詰つた唯一人の社会学者があった。それが我がジョルジュ・パラント先生である。〜〜スチルナアのフェライン・フォン・エゴイステンなるものは、徹底個人主義の立場からは全然成り立ち得ないというのが彼の主張である。〜〜然らば、われわれペシミスチック・インヂヴィジュアリストは何を為すべきか、また何を生くべきか?答えは洵に簡単である。当に自ら殺すべきであると。蓋しマアルクスのいう階級闘争があるばかりではない。スチルナアの個体闘争があるばかりでない。実にわれの各個体が不断に互に相互する感情、本能、パッションの戦場であるからだ。…」最後にシュティルナー研究者、ゲオルグ・アドラーのピストル自殺と、シュティルナー哲学を更に掘り下げ思索したパラントの自殺という同じ運命に思いを寄せて結んでます「シュティアネリズムと自殺宗、抑もその間に如何なる有機的関係が潜んでいるのであろうか?」と…。
百瀬自身はパラントの自殺について「ついに此の勇気を持ち得た!」と感想を述べてますが、シュティルナーが毒虫に噛まれて孤独死(わたし的にはこっちの方が断然イケてると思う!)というのはしょうがないとして、自殺っていうのは自身への落とし前としてどうかな〜?しかし、掘り下げれば掘り下げるほど死期が近づく個人主義!まるで恐怖新聞。「配達されても読まなきゃいいじゃん」と思っても目に飛び込んでくる恐怖新聞みたいに、魅惑的で興味をそそる虚無主義。ジョルジュ・パラント先生…名前を知ってからまだ日が浅いですが、本を探して読んでみようかな〜っと…死神なんて怖くない!

地人論
エリゼ・ルクリュは享年75才。訳者でアナキストの石川三四郎は享年80才。
この「地人論」なら穏やかな長寿が望めそう・・・
でも、やっぱりなぜか、アナキストには非命の死が似合う。

(エリゼ二郎の大学時代の趣味、それは深夜の散歩と表札泥棒!そのどうしようもない不真面目さに共感するよー!!)