カテゴリー別アーカイブ: 古本

藤井書店

先週金曜日に用事があり吉祥寺へ行った。吉祥寺は母校の(今はもう無い)武蔵野美術学園があった街で、本科~研究科と5年間も通った思い出のある街だ。

間違えて早く着いてしまったので商店街をブラブラしてると、サンロードを抜けた五日市街道にある古本屋〈藤井書店〉が昔と変わらず営業しているではないか!懐かしい〜(勝手に廃業したと思っててすみませんでした)。ここは当時私が一番好きだったお店で、1階は美術関係と学術書、階段書棚には映画/演劇/音楽の本。2階に上ると古い小説と詩集があり、そして大小様々な大量のコケシを背後に従えた老店主がいつも静かに鎮座していた。
このお爺さんと喋ったのは1~2回しかなく、はっきり覚えているのは
高校時代から欲しかった萩原朔太郎詩集『月に吠える』の復刻版を2階で発見し購入したときのことで、感激して思わず「やっと手に入って嬉しいです」とお話しすると「そうですか」と言葉すくなに答え、詩集を包装紙で丁寧にくるんで輪ゴムでパチンと留めてくださった。本当に嬉しかったな〜

30年も前だから既に御存命ではないはずなのに陳列の傾向は全く変わらず、あたかもタイムスリップしたかのような錯覚に…。微細に売りつつ同じような細胞=古書を仕入れて代謝してるのか?(古本屋さんの不思議)

〈藤井書店購入〉
IMG_6427
19歳の頃に藤井さんで買った3冊
萩原朔太郎『月に吠える』復刻版、萩原恭次郎『死刑宣告』復刻版、稲垣足穂『人間人形時代』
同じ苗字だから朔太郎と親類かと勘違いして購入した詩集『死刑宣告』の衝撃!すごく影響を受けた。
怒涛の変態博識タペストリー『人間人形時代』は読者の理解を置き去りに稼働する高速機織り機のようで、なんだかよくわからん本だ(未だに)。

IMG_6429
そしてこれは先日購入した本『そばちょこ』¥200
物欲から解放されるために大量の猪口写真を見て充足しよう!私は鴨(長明)になりたい…

ブルもプロもいない楽園へ…

漫画だから楽に読めると思ってた『アトム博士のユートピア探検』は、子供向けとは思えぬ文字の多さに苦戦し読破できずにいる。マルクス博士が登場し「資本論」を解説するところから、如何にブルジョワジーがプロレタリアを搾取してるかを労働・賃金・時間・価値などの単語を使った算式で示す憎悪煽動場面ばかりで、確定申告すらまともに一人でできない私にとって苦痛でしかない。自分がどれだけ損してるか計算して立腹するよりも、夕飯の献立とお酒について真剣に考える方が私は良いな。
(社会主義者よりも) ごく一部から愛好される詩歌を作った鴨長明や尾形亀之助のように、ぐうたらな美意識に忠実な人生を送った個人主義者(心の貴族)を私は尊敬する。

眠りの国で時間旅行しながらユートピア探検する兄弟
IMG_6335
小5兄「ウーム!!ぼくは.もう我慢なりません。博士ッ!!  いっしょにプロレタリアの味方をして.憎いブルジョアジーを.やっつけようではありませんか?」
小1弟「兄ちゃん。ぼくは.ブルジョアが栄える秘密を聞いた途端に……社長になって大もうけしたくなったよ。マルクス博士ッ。その安い労働力は.どこへ行ったら買えるのですか?」
….小学生の兄弟ですら分断させ階級闘争を勃発させるのが革命の方法だ。

アトム博士のユートピア探検

次回作のためにユートピア研究をするものの、学術書を読むのが面倒なので何か近道はないか?と検索し発見したのが学童向け図書『まんが アトム博士のユートピア探検』という本です。
この本では原始時代の営みから自然発生した社会制度について紐解き、人類の理想郷(幸福の経済システム)は、資本主義と社会主義のどちらで実現可能かを漫画で解説してます。二大イデオロギーの対立をアジる文言〈社会主義vs資本主義〉が大書きされた児童書の公平性を私はちょっと疑っており、まずはこの書物の傾向について観察(斜め読み)してから詳しく読み進めることにしました。

1990年刊行の珍書
IMG_6276
著者名よりも石ノ森章太郎が大きく書かれているが、石ノ森先生が描いた漫画ではない。

IMG_6277
簡単な判定ポイントは「暴力革命」の是非かな?と思い、ざっと目を通したところピースサインで暴力革命を肯定するマルクスの姿があった。危険思想に警戒しつつ文字が多過ぎる漫画を読もう!(面白い内容は後日掲載)

同姓同名のベーコン

30年前ムサビ学園在学中、油絵科のイクちゃんが「わたしフランシス・ベーコンが好きなの」と話すのを聞き〈ほほぉ、フランシス・ベーコン卿がお好きとは高尚な!〉と感嘆したが、イクちゃんが好きなベーコンは20世紀の画家でルネサンス時代の思想家のことではなく、とんだベーコン違いだった。その後ベーコンの絵は何度か見たが、ベーコン卿の本は全く読まずに月日が過ぎた。
それがつい先日『ニュー・アトランティス』という薄っぺらい本を図書館で借りて「ベーコン面白いなぁ」となり直ぐ購入。この本の125ページ中前半がベーコンの書いたユートピアSF小説だが、執筆途中で死んじゃったので未完。残りの半分は忠実な助手による回想文と訳者の解説文でどうにか文庫本のページ数をかせいでいる。
どんな物語かというと、大航海中に漂着した謎の超文明国家の島で、学会の長老からいろんな自慢話を聞かされるお話だ。太陽光や水力を利用した動力、遺伝子操作など、現代のテクノロジー及びバイオを連想させる予言、さらに引き篭もり人間と地底の活用方法など、17世紀とは思えぬ空想が書かれておりオーパーツを見るような不思議を感じる。

超御曹子だったベーコン卿の人生は、父親が風邪を拗らせて亡くなってから雲行きが怪しくなり、転落の末どうにか発明で身を立てようと〈鶏の長期保存法〉に挑戦し命を落とす。寒い日に行った鶏のお腹に雪を詰める実験で風邪をひいてしまい(父親と同じく拗らせて)痰を詰まらせ窒息死したというのだ(なんたる悲運!) 風邪をひかなかったらニュー・アトランティスが完成したのに残念。みんな風邪と疫病には気をつけようネ

IMG_5452
発売当初400円だったのが現在絶版で3倍の1200円に高騰(これでも最安値)。こういった愉快な書物を売れないという理由でどんどん絶版にするとはけしからん (安く大量に普及させよ)

お土産現役選手

幼虫瓶詰が並ぶ松本駅ビル物産店にて懐かしい土産品を発見し「まだ現役だったか!!」と私は小さく感動した。そのお土産とは昭和時代に各地で流行したミニ図鑑キーホルダーで、私は『海の生き物図鑑』と『恐竜図鑑』の2つを持っているのだが、まさか今でも生産販売されているとは思ってもみなかった。しかも松本城が表紙にあしらわれた『全国お城図鑑』は、松本に来た記念に(松本城には行かなかったけど)ピッタリだ。440円とお手頃価格で即購入!(増やしてはならないオモチャがまた増えちゃった)
ちなみにこのミニ図鑑シリーズは学術的な昆虫図鑑や動物図鑑の他に、非科学的な血液型占い、365誕生日花占い、それから余興にピッタリな『なぞなぞ100』など種類豊富。私はこれらを見つけたら即購入するだろう(全巻揃えるのならば所有物増加の恐怖を捨てよ)

IMG_4907
『海の生き物図鑑』は水族館にいそうな生き物図鑑60%・後半40%はナマコやヒトデの写真集
『お城図鑑』末尾に「参考資料が少なく城の大きさや築城年など諸説あり、参考とお考えいただければ幸いに存じます。」というお詫びがあり謙虚さを感じる。
『恐竜図鑑』は恐竜同士の恐ろしいケンカのことなど子供が知りたい豆知識満載!

ドンブリ鉢を飛ばす事

鉄道移動中に読むのに丁度よい仏道ショートショート『発心集』を山手線外回でも読む。品川~渋谷(5駅)間で読んだ〈浄蔵 貴所 鉢を飛ばす事〉はこんなお話だった。…..

ブーメランのように空中にドンブリ鉢を飛ばすと、鉢に食べ物が入って戻ってくる〈鉢の法〉という術を操る行者がおり日々これで食べていたが、何故かここ3日間ドンブリが空っぽのままUターンしてくるので「これは変だぞ」と怪しむ。そこで、投げたドンブリを追っかけて行くと、真っ向から飛来してきた別のドンブリの迎撃を受け、食べ物を横奪される瞬間を目撃する。なんという事だ!許さん!憤怒に駆られて敵ドンブリを更に追跡すると山奥の小さな草庵に辿り着いた。

庵の中には謎の老僧が座っており「ドンブリの件について何かご存知ですか?」と行者が訊ねると「はて、知りませんが、もしかしたらウチの童子の仕業かもしれません。」と老僧は答え、背後にいる美麗な童子の方を見ると赤面しながらモジモジしてるではないか。「ああ、やっぱり!すみませんね…この通りです。お詫びにこちらを召し上がってください。」と赤いリンゴを4切れご馳走してくれて、それはこの世のものとは思えない甘露な果物だった!…おしまい

この〈鉢の法〉という術では、ドンブリが空中飛行し戻ってくる何処かのタイミングで食物が盛られるようだけど、折り返し地点に料理人でも待機しているのだろうか?このお話では詳細不明。
ドンブリを空に投げるだけで毎日ご飯の心配が無用とは、こんな素敵なことは無い!(そしてこのお話には仏教的教訓が無い)

(空中戦)
IMG_3695
敵ドンブリに迎撃され器の中身(ラーメン?蕎麦?)を横奪されてしまったのだ!
(替え玉無料では無い)

(昼はフォー)
IMG_3666

(夜はトムヤムクン)
IMG_3675
投げたフォー丼鉢がトムヤムクンになって戻ってきた訳では無い
買ったパクチーの束が大きすぎたので山盛りパクチーで消費してるところ。

ニュー名山圖會

一昨日、8週間借りてた重たい本『日本の船絵馬』と『板碑の美』を世田谷図書館ニーベルハイム(地底保存庫)に返却しに行くと、1階ロビーでブックリ市(除籍図書無料放出会)が開催されていた。将来の鴨ライフ実現のためこれ以上本を増やしてはいけない、という私の自制心は「無料」の2文字を前にもろくも崩れ厳選2冊をタダでもらって帰る。それがこちらの『教育者 シラー』と『現代日本名山圖會』です。

無料の歓喜
IMG_3662
18世紀ドイツの詩人で思想家のフリードリヒ・シラーは第九「歓喜の歌」の原詩作者として有名。冒頭「おお友よ,こんな歌ではない!」の箇所のみベートーベン作でそれ以降はシラーの詩だというが、しょっぱなから肩透かしを食らわすような面白い歌詞を付け足したベートーベンはやっぱり天才。

真ん中の三宅修著『現代日本名山圖會』は、谷文晁の『日本名山圖會』に描かれた88山を訪ねて、文晁の絵と同じアングルから写真を撮り紀行文にまとめた1冊。

福岡と大分の県境にある「彦山」
IMG_3663
こちら本家『日本名山圖會』を見て「こんな変な山が実在するのか?」とかねてより疑問に思っていたのだ

彦山(英彦山)実物写真で比較
IMG_3664
(な〜るほど) 実像より印象に重きを置いて、山を丸めたり盛り上げてたり摘んだり動かしたり消したりと、画家が自由自在に山体を操作し思いのまま描いていたことがニュー名山でわかった。また圖會が図鑑ではないこともわかった。(写実より理想を!)

日本の船絵馬

(図書館返却期限迫る) 貸出期間延長を重ねて8週目となりつつある『板碑の美』と一緒に借りている『日本の船絵馬 北前船』は、20年前の船絵馬ブーム時代に何度も借りたお気に入りの一冊で、この本でしか得られない貴重な日本全国の船絵馬データーを頼りに、千葉/新潟/香川など各地の社寺を訪ねて絵馬堂を見物したものです。
3月に訪れた石巻の旧家・本間さんの土蔵でこの『日本の船絵馬 北前船』を発見。「あっ!これは私の大好きな本です!」と驚きの声をあげると、本間さんは「今だと古書で5千円ぐらいで買えますよ」と教えてくれましたが、私はすでに承知で20年も買うか買うまいか逡巡し現在に至るのでした。
(なぜ買わないかと思ったでしょう?) 買わない理由は「重たい」からで、A4サイズで300ページ足らずなのに、厚みが4.5cmもあり重さは体感で3kg以上はあります。また、収録図版が現場(社寺)で撮影した白黒記録写真で、あまり鮮明でない点もこの重厚装幀本を購入する決断が下せない理由です。(ポケット版で再版希望)

(船絵馬の典型)
IMG_3627
群青色の快晴を背景に白い帆に風を受けて快走する弁財船が描かれた木製の額絵。
ほとんどが左向きの舳先の上に陽が昇る構図で、船上の乗組員全員でお日様を仰いでいる。
船後部には船名が書かれた幟と黒羽織を纏った船主の姿があり、右端に明記された代表者氏名でこの人が海上安全を祈願して奉納されたことがわかる。

(レアバージョン)
IMG_3628
真正面から船を描いた珍しい絵馬
順風満帆の様子が画面いっぱいの帆で表現され、得も言われぬ爽快感!

(恐ろしい海難絵馬)
IMG_3616
安定した様式美を感じさせる絵馬群の中、秩序を破る不穏な絵馬が…
これは大時化に遭遇した船が、九死に一生を得て帰港できた幸運に感謝し奉納した絵馬だという。
山脈のような高波に揉まれる船の舳先には、天上の氏神に向かって必死に救済を祈る船員たち。その頭上に浮遊する雲に乗った御幣は、今まさに顕現した神の霊験を表している。
(このような絵馬を新潟県長岡市寺泊の白山媛神社で見たような気がするけど、20年前なので確証は無い。)

蟹の恩返し

私の手元にある古い宝塚少女歌劇絵葉書には、青年に扮した少女と蟹を頭に乗せ蟹爪型の槍を持ってポージングする蟹役の少女が写っている。これは京都府木津川市にある蟹満寺にまつわる故事『蟹満寺縁起』のお芝居の場面で、それはこんなお話だった。

〈昔むかし、とある村で慈悲深い娘が父母と三人で暮らしてました。ある日のこと、娘は蟹を大量捕獲した村人を見つけ「その蟹を全部売ってください」と申し出て買った蟹を解放してあげました。また後日には、娘の父親が畑仕事中に蛙を飲み込もうとしてる蛇を発見。「ちょっと待て!娘をお嫁さんにあげるから蛙を食べないで」と言って蛙を助けました。
父親は帰宅後この事実を娘に話し「大変な約束をしてしまった!」と後悔し泣きましたが、娘は「どうにもならないから観音様にお祈りしましょう」と寛大な言葉で逆に父を慰めました。
夜になって約束どおり男に化けた蛇が来訪するも「まだ準備が整ってないので…」と断り、翌日は家中の雨戸を閉めて完全無視。すると男は怒り狂った大蛇になり家屋をグルグル巻きにして破壊しようと暴れ始めました。「観音様!助けて〜」一心不乱に救済を唱えると観音様が現れ「安心しなさい。娘の善行により事無きを得るでしょう」と告げて消えたのです。
すると不思議なことに、次第に暴れる大蛇の気配はなくなり静かな朝を迎えました。「どうしたことだろう?」と一家が外に出て目にしたものは、ズタズタに切断された大蛇の死体と、無数の蟹の死体が散乱する凄惨な光景でした。「蟹の決死隊が助けてくれたのか…ありがとう蟹!」家族は義理堅い蟹たちの死体を集め埋葬し、その上に観音堂を建立して蟹と観音様への感謝を捧げました。以上が蟹満寺の縁起だと言い伝えられてます。おしまい〉

お父さんの軽はずみな善行で蟹が犠牲に…なんだかやるせないなあ。私はこの蟹の恩返しを読んで魚コーナーバイト時代の出来事を思い出した。(次号に続く)

宝塚少女歌劇「蟹満寺縁起」
IMG_3599
このような演目は最近の宝塚でも上演してるのか?(やってるのなら見てみたい)

板碑の美

この『板碑の美』という写真集は私の蔵書ではなく世田谷中央図書館の本で、3月9日から借り続けて今日で1ヶ月目です。シャープな梵字がかっこいい板碑写真が多数掲載された良書なので古本で購入しようか迷っている最中ですが、長期レンタルでなんとなく自分の本のようになった錯覚が…。返却後どうしても欲しくなったら買おうと思います。(鴨ライフ標榜で大型本購入を控えてるから)

IMG_3537
(板碑写真集) 板碑の美  鈴木道也著

写真集より転載
IMG_3538
埼玉県行田の山林に佇むかっこいいモノリス(板碑)
カリグラフィーぽい梵字は「種子(しゅじ)」というマークで、仏像を刻むことなく種子のみで仏を表すことができるのだ!この梵字「キリーク」は阿弥陀を表現しているという。

地下書庫(保存庫)より
IMG_3539
世田谷中央図書館の地下に眠る名著『板碑の美』
過去に所蔵の烏山図書館での貸出履歴は…なんと
1988 / 89 / 93 / 98 / 99年…11年間にわずか5回!
板碑人気を数字で見ることはできないが、美の真価は数で計れるものではない。

(板碑アイランド雄島)
IMG_3536
残¥300のパスモを落とした松島.雄島は石造厨子/石仏/五輪塔/板碑が多数残る石LOVEアイランド