月別アーカイブ: 2020年1月

最後のイチゴ

先日のパーティはお喋りに徹するあまり(目の前に鯛のお頭付きなど豪勢なご馳走が並んでいるのに) イチゴをたった一粒食べただけでお開きになってしまった。私はショートケーキ天辺の装飾イチゴは最後に食べる派だが、単体一粒では寂しすぎる。しかしまた、至福のときの終わりを知る最後のイチゴにも寂しさがある。
新年最初の荷として届いて以来、本棚に祀られている詩集『尾形亀之助全集』に収められた散文〈庭園設計図案(或る忘備帖)〉はまさに最後のイチゴのような存在だ。

何年間も欲しい欲しいと恋い焦がれつつ、高額書籍購入に二の足を踏んでるうちに更に価格高騰!大人気『尾形亀之助全集』の市場価格は2万円を超えてしまった。(ところが!!) 昨年末ヤフオクに100円スタートで出品されてるのを発見し(なんと!!) 6,546円で落札できた!(やったね!!)。
しかしあまりにも長い間この本に執着しすぎたため、入手したら有難味がありすぎて開くことすらできずにいる。特に全集にしか収録されていない〈庭園設計図案〉を読んだら積年の願望は成就しツマラナイ気持ちになりそう。なので未だ最後のイチゴは食べないままだ。

尾形亀之助全集 (思潮社 1970年 )
IMG_2658
己の感覚のみを尊重した偉大なる役立たず。
画家の才能がありながら役立たずの先鋒=詩人に転向した絶望的天才!

有難うございました。

暖冬だというのに今年もまた足がシモヤケになり、腫れて痛いので硬い革靴が履けず、ましてやハイヒールなどもってのほか。仕方なく昨日のフォーマルな場は、和服に草履(足袋と草履なら痛くない!)で出席し、シモヤケ問題をクリアしました。
昨日、大手町の日本工業倶楽部にて『第30回タカシマヤ芸術賞』授賞及び『タカシマヤ文化基金』贈呈の式典が催され、私は受賞者として出席しました。会場の倶楽部会館は上流階級の集う宮殿のような近代建築で、本来ならもっと盛装しなければならない場でしたが、ゴージャスな衣装を持ってないのでこの程度でお許し頂きたい。
授賞スピーチでは、徳勝龍の優勝インタヴューを見習って、カンペ無しの自然体で喋ることを心がけました。そこで話した「21世紀を振り返ったとき、文化の残ってない時代であってはいけない。そうならないために私は文化の屋台骨になる覚悟である。」という内容は本気で今後も続けて実行するつもりです。頂いたもの以上のものを返すのが渡世の仁義なので貰った以上は頑張りま〜す。賞関係者皆様、参列者(欠席者)の皆様ありがとうございました!

(金屏風)
IMG_2654
小泉明郎さん、コンタクト・ゴンゾさんと授賞しました。

釣鐘墨

通常ならばプレス機で刷る規模の板木を、27年間使用しすっかり目の潰れてしまった自作バレンで無理やり刷っているので、肘がビリビリする故障を起こすようになり「これでは選手生命が持たない」と危機感を覚え、私は板木を刷らない方法を考案した。それが新作『セメントセメタリー』に導入した新機軸〈乾拓法〉である。乾拓とは、凹凸のある被拓物に紙を当て、鉛筆やクーピーでこすり出すフロッタージュ技法と同じ要領で、基本的には薄めの和紙と釣鐘墨という名前のカワイイ梵鐘型の固形墨を使用するらしい。
そして先ほどチャレンジした第一回乾拓作品がこちら。かなり微妙な山岳風景画である。

IMG_2636
ぼや〜っとしちゃった!ぼや〜っとした武甲山の姿。

(とてもカワイイ釣鐘墨)
IMG_2638
蝋で固めた墨は硬く油分がある。

(釣鐘墨と紙があれば)
どこでも採拓できる便利品!
IMG_2639
〈偽造通貨〉お金を増やしたい人は、参考作品のように5百円玉を採拓し、丸く切り抜いたものをお財布に入れてみてはいかが?

飯場鴉が5羽

新作「セメントモリ」の刷り作業を、かざまランド執務室のテーブルコタツで強行し4日目の今朝、やっと5名全員刷りあがりました。卓上に横たわる掘削作業員をバレン一つで刷る重労働を、私は『浪曲子守唄』など熱唱しながら自らを鼓舞し完遂した。180cmの版木にたっぷり盛った油性インクから揮発される毒性のありそうな(タミヤカラー溶剤のような臭いの)空気を吸いながらの歌唱で、私の声はシャガれた。「憧れの一節太郎さんみたいな男前のダミ声になれるかも」と期待するも、残念ながらそうなる前に作業は終了〜
(もしかして)刷り作業開始日からネズミが来なくなったので、 この石油系溶剤の悪臭に危険を感じ逃げたのかもしれない。だとすると害毒を疑いながら辛抱する人間より、察知能力が高くさっさと退避するネズミの方が賢いと言える。(逃げたネズミにゃ未練はないが…私は布団でネンコロリ)

IMG_2633
新潟に一節太郎経営のカラオケ酒場があるという
この超名店の暖簾をくぐるにあたり、一節先生の前でも堂々と歌える歌唱力が不可欠と思われるが、残念ながら私には無い。

夜の戦い

(本当の長音符の位置はどこ?) グレーゴール君が自室壁面に自作の額を飾ったように、私も年末から続く在宅ワークの気晴らしに、自分で額装した古い図版を壁に飾った。新しい室内装飾に心も軽く椅子の上にピョンと乗る、がしかし長押の上に発見したネズミの糞で直ぐに意気消沈となる。「いつ入ったのか?」来訪は許しても侵入だけは阻止してたはずなのに!
私は「絶対阻止」の決意を固め、いつもネズミがガリガリ嚙ってうるさい法隆寺壁画印刷(観音菩薩)頭上と本棚(現代詩手帖真下)を重点的に警戒。気配がするやいなや、天井裏から縁の下から狙いを定めハッカスプレーを噴射し撃退。しばらく攻防が続いたが、いよいよ敵も根負けしたのか、3日前から来襲が止み、足音が全くしなくなった。
予想以上の効果があったハッカスプレー(ネズミの見張り番)はネズミ生体に無害でとても香りが良く、含有成分の琉球ハーブは月桃という名の美しい植物で、この爽やかな芳香の元であることがわかった。ネズミ不在の平穏なひととき、月桃茶でも飲んで逃げたネズミでも偲ぼうか?(すでに新居を見つけて引越したなら良いけどね)

(新しい室内装飾)
IMG_2629
巨大天体望遠鏡が印刷された19世紀の奇妙な図版

記憶の変容

画学生時代に吉祥寺で桂枝雀『変身』チラシを入手してから25年が経過。言わずもがな25年前の1995年は阪神淡路大震災発生と同じ年である。四半世紀の歳月で風化が憂慮されている大災害の記憶と同じく、私の『変身』の記憶もまた曖昧になりつつある。
一昨日書いた変身梗概〈虫になったことで家族の本性を目の当たりにし「な~んだ、俺が働かなくても生活できるじゃん…」と今まで自分に依存してきた家族にガッカリして死んじゃう〉 に自信がなくなり、今一度、新潮文庫を読み直すとやはり記憶違いがあり誤謬があった。
正しくは〈家族、特に妹は虫になった兄の処遇に心を砕いたが、両親ともに疲弊しきって放置することを決断。へんな虫状態をあっさり受容した主人公は、家族の変化に理解を示しつつ、次第に衰弱し自室で死亡〉と、だいたいこんな内容だった。存在しているのに「無き者」のように扱われ、蚊帳の外に置かれても家庭を思う切なさよ!大黒柱グレーゴルの不在で(やっと)
自活に目覚める家族を描いたラストは、不条理な災いも幸に転じる人間の生命力というものか?(グレーゴルが可哀想)

IMG_2530

変身変容

家族を養うため渋々サラリーマン勤めをしてた青年が、ある朝目を覚ますと巨大な虫になっていた。虫になったことで家族の本性を目の当たりにし「な~んだ、俺が働かなくても生活できるじゃん…」と今まで自分に依存してきた家族にガッカリして死んじゃう。というのがカフカ『変身』のお話で、この不条理小説が原作!と銘打った桂枝雀の落語芝居『変身』の(枝雀さんのクシャ顔からカフカ要素を見出し難い)チラシが、私の古いファイルに保存されていた。
特殊な原因もなく虫に変容してしまう悲劇が、1995年上演の創作落語劇『変身』では、太鼓職人のオヤジの身体が女性化!?という陳腐で通俗的な内容に変えられており、チラシ裏面には原作への敬意が感じられない梗概が書かれていた。私が23歳だった当時「インテリ落語家のお遊び」と軽蔑したことを覚えている。
(しかし今になって考えると) 生前カフカ自身が『変身』を朗読するときに、無様なグレゴール・ザムザの描写を笑いながら読んでいたそうなので、現在なんとなく〈不条理〉を実存主義とか哲学的にマジメに読解しているが、カフカ本人はこの作品を落語のようなナンセンス奇譚として書いた可能性もありうるのではなかろうか?(我々のような人間のトンチンカンで合理性に欠ける行動、即ち滑稽な人生そのものが不条理の連続と言えよう。)

IMG_2621
(魅力的なチラシコレクション)
チラシを貰って行くことよりも、貰っても行かないことがほとんどで、勿論これも行ってない。

New無人島P展(準備中!)

なぜ私はこのように焦っているのか?それは、来たる2月(たぶん8日から)無人島Pで個展が開催されるからです。『セメントセメタリー』と題したこの展覧会は、黒部の〈クロベゴルト〉と2点の新作〈セメントセメタリー〉〈セメント・モリ〉を中心に構成。12月の秩父武甲山見物はこのセメント新作のための取材だったというワケ。室内にコンクリート堤 (大横川護岸)が食い込んでる!? 世にも珍しいギャラリー・墨田区ニュー無人島に、この世のものでない石灰石の亡霊を喚び起す…そんな展示を皆様にお見せする予定で~す。(間に合うかな?)

(この人を見よ)
IMG_2601
180cmの版木に彫られた巻ゲートルに草鞋の掘削作業員の勇姿

IMG_2609
フェイスシールド付きミドリ安全の新型ヘルメットを装着
(腕のドリルは現実のものか幻か定かではない)

西へ(SAで迷子になる夢)

(夢で)高速バスで西へ向かう。途中トイレ休憩で停車した静岡(沼津?)のサービスエリアで私は迷子になってしまった。15分で発車するというのに自分が乗るバスが見つからず小一時間もグルグルとSA内を徘徊しているのだ。「〇〇交通」という車体の文字だけが頼りだが、見ると全部のバスに〇〇交通と書いてあり判別不能だ。「もう私を置いて発車してしまったかも」…とりあえずSAのカフェテリアに行くと、そこには見覚えのある運転手と乗客数名がコーヒーを飲んで休んでいた。
「すみません!迷子になってしまって…」と謝ると「まだ15分しか経ってませんよ」と丸顔の運転手さんがにこやかに言ってくれた(変だな?そんなはずないが…でも間に合って良かった!!)

この運転手というのが、正月2日に大型コピー店で接客してくれた50代位の男性従業員と同一人物で、この人は笑顔だけどモタモタしておぼつかず、やけに焦っているのが印象的だった(なので夢に出た)。聞けば正月だけ臨時で池袋店から派遣されたのだという(なので慣れてない)。正月も休めない者同士だ、私はイレギュラー要員に同情した。

つのる焦燥感が叫びをあげる
IMG_2593
「僕のバスはどこにあるのーー!!」

ネズミの見張り番

「ここに来たら危険だよ」そうネズミ君に伝えるために、毎夜私は大声で演歌を歌い、金定規で天井と柱を叩き騒音を鳴らす。(さて)このうるさい音にネズミが恐怖し去るか?それとも近隣住民から狂人の住まいと認定されるか?どちらが先か?
もちろん人間から危険人物と目されることは本意でないので、私は薬局でネズミ忌避剤を購入し新たな作戦に出た。この噴霧式薬剤は〈ネズミの嫌がる臭いを撒くことで来たくないお家にする〉といういたってシンプルな代物で、ネズミに危害を加えずに侵犯問題を円満解決することができる。日頃より殺生を極力避けて生活する私にピッタリの商品だ。(税抜き価格980円 )
早速、外壁の穴を探し噴霧しようと試みたが穴が発見できなかったので、縁の下通風口と、ひさしの上、天井裏にスプレーしてみた。ネズミの嫌いな臭いとは意外にもミントティーのような爽やかな芳香で、こんな平和な香りで本当にネズミを追い出すことが可能なのか、甚だ懐疑的である。

〈ネズミのみはり番〉
IMG_2595
 番場のチュウ太郎/浪曲子守唄/帰り船/別れの一本杉/網走番外地など
いずれも鼠のチュウ太郎忌避効果ゼロの楽曲だということがわかった。

IMG_2596
〈効果は個体差による〉
肝の座ったネズミ・ぼんやりネズミ・鼻づまりネズミへの効果は期待できない
ネズミが苦手なミント臭はハッカ油由来。ではネコ臭の有効成分はこの「琉球ハーブ」という沖縄産・不明の植物だろうか?