日別アーカイブ: 2021年5月12日

原始の鉱脈

岩田慶治の本だったか、水木しげるの本だったか記憶は曖昧だが、昔読んだ本のどこかに「山中で仕事道具を失くしたら、下半身裸になって山の神にお願いすると紛失物がひょっこり出てくる。」という山の男(マタギ・木樵・炭焼など)の間で伝わる怪しげな迷信が書いてあった。山の神は「女」とされており、彼女が喜ぶことをすれば、山の安全や恩恵が与えられるという古くからの信仰だ。醜女の神のご機嫌をとるために変な顔の魚(オコゼ)を奉納する神事は有名だが、トンネル工事の現場に奥さんが弁当を届けたりすると、山神が嫉妬して事故を招くからダメ、などの日常的な禁忌も割と近年まで守られていたそうだ。

原始の鉱脈
原始の鉱脈
『産業の山脈』に上書きされているのは太古の山の女神。虚ろなイーヴィルアイで天然資源を盗む不届き者を見張り、もしこの魔物的な目に見つかったら侵入者は呪われるであろう。反面、口元から漏れる水晶の煌きは野心に満ちた山師を誘うのだ。ラインの黄金と同じく、無垢の鉱物は誘惑し繁栄と没落を約束する。

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『原始の鉱脈』に貼られた木版画は、明治時代の教科書を切貼りした自作コラージュを元にして作った。この挿絵にあるような水晶の鉱脈は富士山の周辺に点在し、山梨産の水晶は明治時代に乱掘され大正時代に枯渇したという。(近年のパワーストーン流行でヒマラヤ山脈も危ない!)
鉱物とくに結晶はキラキラして大好きだが、人間が強制的に掘起して光に晒すからキラキラするのであって、石にとっては万年暗闇で眠っている方が幸せなのかと考えると複雑…。もう無闇に光る石を買うのはやめようと思う。 (私は誘惑に負けない!)

【お知らせ】
緊急事態宣言延長につき、東京都現代美術館も5/31まで休館になりました。6月に再開されるのか不透明ですが…残された会期に期待!