日別アーカイブ: 2014年2月1日

マッドメン

影響を受けた漫画といえば「おろち」「空手バカ一代」「こいつら100%伝説」…あげればキリがないですが、私の中での揺らぐことのない金字塔は諸星大二郎の「マッドメン」です。現代文明に対しての葛藤と疑問を投げかけてくる土人?漫画の大大大傑作です!
文明に侵されつつある、しかし未だ呪術や精霊信仰の残るパプアニューギニアの奥地を舞台に、文化人類学のモルモットとして、人類学者・篠原教授とニューギニア原住民の女性との間に生を受けた少年コドワと、コドワとは異母兄妹にあたる波子が繰り広げる愛と葛藤の物語です。科学知識と精霊信仰をあわせもつ不思議な少年コドワと、日本の現代社会で育ちながらも未開社会にまったく物怖じしない順応性をもつ波子。森の掟と文明社会の軋轢に勇敢に立ち向かいます。
物語には様々な人類学、民俗学、比較文化研究の題材が織り交ぜられ、「そこを繋げるのか?!」といった驚きの諸星ワールド全開です。ノアの箱舟とカヌーの男、国造りとオンゴロの伝説(架空のようですが) 、縄文様式とニューギニアの文様、普遍的な呪的逃走などなど…まさか〜と思いつつ世界観にグイグイ引き込まれてゆきます。
「西洋文明」といわゆる「未開社会」との軋轢と葛藤を描くにあたり、重要な要素となっているのが「カーゴカルト」=積荷信仰です。人工的な物資にふれた原住民は、さらにモノを求めるようになる。しかし、それは白人がもたらす物ではなく、白人に占有された元来祖先の富であった積荷がいずれ自分たちに戻ってくる、という考えです。いつか祖先の霊や神様が飛行機や船に「積荷」を満載して与えてくれる、その為に白人の模倣をしたり、ハリボテの飛行機を作って「積荷」を待ちわびます。…私はこの漫画ではじめて「カーゴカルト」について知りましたが、単に外界との接触でおきた未開人ならではの妄信と笑えないな〜と思いました。新しい商品が発売されれば欲しくなる、一つ手に入れば二つ目が欲しくなる、これは消費社会の基本であり資本主義の原動力でもあります。マッドメンに描かれた原住民のヒステリーや狂乱、文明と遭遇した初期衝動は、物質的所有こそが文明社会のメンバーになる第一歩であることを考えさせられたりするのです。
…未開文化を侵略するキリスト教「伝導決死隊」というのが登場しますが、これを読んで親族の葬式の時に、プロテスタント教会に掲示してあった「ブラジルに光を届けましょう」という伝導ポスターを思い出しました。ブラジルはほとんどカトリック信仰です。葬式の説法で牧師が「キリスト教以外の盲目の信仰」と大変失礼な発言をかましてた、葬式なのでいろんな宗教の人が参列してるのに!世の中見えてないのはどっちだよ?と叫びたいのを堪えました〜。本当にヒドいね!
土足での開発=侵略を、文明の光と受け入れるべきなのか?…マッドメンはそんな疑問が詰まった良書です!(密林と精霊の描写が素晴らしい!コドワがハリボテ飛行機の上で悪霊アエンと格闘するシーンは鳥肌ものです)

マッドメン
精霊(アイオス)は来る!森の奥でもビルの中でも掟を守り、精霊を呼ぶ心さえ強ければ….
『完全版 マッドメン』1991年刊行:ちくま文庫